視聴者やスポンサーからのクレームを意識するあまり、「つまらなくなった」「無難な番組が増えた」と言われるテレビ業界。だが、最近、「イジリ番組」という新しい動きが出てきているという。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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この春、各局が作り手の悪意を感じるイジリを前面に出した番組を連発して、ジワジワと話題を集めています。
ドラマでは、SNSでバズることに一喜一憂する人々をイジる『向かいのバズる家族』(読売テレビ、日本テレビ系)、あえて結婚しない独身男(AK男子)をイジる『東京独身男子』(テレビ朝日系)、アホなサラリーマンが増えたことをイジる『頭にきてもアホとは戦うな!』(日本テレビ系)、男のエロ妄想をイジる『癒されたい男』(テレビ東京系)、さまざまなセレブ家庭をイジる『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)が新たにスタート。
バラエティーでも、さまざまな成功者をひねくれた目線でイジる『ひねくれ3』(テレビ東京系)、自分らしさを求めた生き方を貫く男性をイジる『新・日本男児と中居』(日本テレビ系)、毒舌講談師・神田松之丞が話題の人やスポットをイジる『松之丞カレンの反省だ!』(テレビ朝日系)がスタートしたほか、5月31日にはおひとりさま生活をイジる『金曜日のソロたちへ』(NHK)も放送されました。
いずれも共通しているのは、「ちょっと意地悪な目線から、対象者たちのちょっと痛いところをイジっている」こと。視聴者に「悪意があるな」と感じさせる構成・演出をあえて行っているのです。
悪意やイジリは「失礼」「イジメ」と言われ、炎上しかねないものであるにも関わらず、なぜテレビ業界全体でこのような番組が増えているのでしょうか?
◆「これは大丈夫」というボーダーラインが生まれた
最大の理由は、各局の作り手たちが、悪意とイジリのさじ加減をつかんだこと。近年、コンプライアンスとクレームへの対策から、バラエティーもドラマも表現の幅が狭くなり、悪意やイジリを避ける傾向がありました。
しかし、無難な生活情報系バラエティーや刑事・医師ドラマが大半を占める中、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)や『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)は、悪意だだ漏れのイジリを繰り返し、何度か問題視されることもありましたが、人気番組として放送され続けています。この2番組が悪意とイジリのさじ加減を教えてくれる存在となって、徐々に「これは大丈夫だろう」というボーダーラインが浮かび上がり、「いけるところまで攻めていこう」というムードが生まれました。
見逃せないのは、これらの番組を見る視聴者がテレビ番組に対して、「相手にメリットがある形でのイジリならOK」「リスペクトやフォローのあるイジリならOK」とみなすように変わったこと。「相手を怒らせないレベルなら、悪意だだ漏れのほうが面白い」「イジリとイジメはまったく違うもの」と歓迎するようになっているのです。
逆に、このところ減りつつあるのは、人・物・店・地域などをホメ殺しする番組。目の肥えた視聴者たちに「広告や忖度ではないか」とあやしまれ、バッシングの理由になりかねないだけに、リスクが高くなっているようです。
◆『翔んで埼玉』のヒットも流行を実証