60才以上の日本人女性の4人に1人がのんでいるといわれているコレステロール値を下げる薬剤のなかには、海外では使用が推奨されていないものが含まれている。在米医師の大西睦子さんはこう話す。
「代表的な処方薬である『スタチン』は日本でよく用いられる薬です。しかし、アメリカの約80もの臨床系専門学会が参加する、過剰医療をなくす『チュージングワイズリー(賢明な選択)』キャンペーンでは、75才以上かつ心臓病や脳卒中の持病がない高齢者には、スタチンは必要ないだろうとされています。
そもそも、年を重ねればコレステロール値が上がるのは自然なこと。しかしコレステロール値の上昇と心臓病など大きな病気との因果関係は証明されていません。転倒や記憶喪失、混乱、吐き気、下痢などの副作用のリスクを踏まえれば、のむ必要がないというのが、『チュージングワイズリー』の意見です」
認知症の原因のうち最も大きな割合を占めるアルツハイマー病の治療薬は日本では広く使われているが、海外の医師たちの多くは懐疑的だ。大西さんが解説する。
「アメリカでは、日本で多く使われる認知症薬『ドネペジル』の効果が限定的であるとされ、さらに副作用が問題視されています。
脳に沈着し、認知症のもとになると考えられているアミロイドβの産生を抑える効果が期待された『BACE阻害薬』も2018年の軽・中度のアルツハイマー型認知症患者への臨床実験の結果、有効な効果が認められなかった。残念ながら『現在のところ、アルツハイマー病の根本的な治療薬はない』というのが結論です」
それは、アメリカにおける主流の考え方となりつつある。海外の医療に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが話す
「『チュージングワイズリー』でも、〈認知症薬は慎重に使うべきで、漫然と使うな〉と評価されています」
その風潮はヨーロッパにも広まり、フランスでも2018年に「ドネペジル」をはじめとした4種類の認知症薬が「効果が不充分である」ことを理由に保険適用外となった。
日本では投薬と食事管理によって治療する糖尿病だが、この病気の薬でも、アメリカではあまり使われないものが日本の中心に居座っている。
「糖尿病治療の基本は、病気のために足りなくなったインスリンを補うこと。アメリカではインスリンの注射が一般的に行われてきました。しかし、日本人は注射やホルモン治療を嫌う傾向があるため、のみ薬で治そうとするんです。特に、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進させる薬である『SU剤』が好まれてきました。海外からみれば、注射に比べればかなり遠回りの治療。『日本人は効くのか効かないのかわからない薬が好き』と揶揄されます」(室井さん)
※女性セブン2019年6月13日号