放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、令和になってひと月の間に憧れの銀幕女優、同年代の座長芸人、かつて本の相方だった漫画家が相次いでこの世を去ったことで終わっていく心の文化芸能史についてお届けする。
* * *
令和になってまだひと月だと言うのに、私の心の中の文化芸能史が終わっていく。
少年の頃「大映映画」のマークと共に現われた妖艶な京マチ子(享年95)。『羅生門』『雨月物語』『地獄門』などでグランプリ女優と呼ばれました。Hなことで頭の中がいっぱいなバカ少年にはその芝居の奥深さなど何も分かりませんでした。本職に言わせると、演技の引き出しが多くダンサー出身ならではの動きが鮮やかだったそうです。生涯独身というのがなんだか胸にツーンとくる。
もうひとりの伝説的な女優も。『青い山脈』のヒロイン杉葉子(享年90)。原節子と共演し、堂々とした演技でものすごい人気を博した。米国人と結婚し海外に移り住んだが、一線を退いたあとも『恍惚の人』などに出演した。もはや歴史上の女優さんたちといった感もあるが、こうして書き記しておかないといつの間にか忘れ去られていってしまう。大衆芸能の美人たちは淡く儚いものなのだ。
高嶺の花ともいえる銀幕女優は想い出のワンシーンと共にあきらめもつくが、年恰好が同じような人たちに逝かれると切なくショックだ。