【著者に訊け】葉真中顕氏/『Blue』/1700円+税/光文社
まさに〈主観の数だけ〉、平成の真実はあった。首都ハノイの繁栄からは見事に取り残された〈B省の農村〉。ここで朝から働き、学校にも通えなかったベトナム人女性〈ファン・チ・リエン〉や、昔気質の警視庁捜査一課班長〈藤崎文吾〉。そして「For Blue」と題された断章の正体不明の語り手〈私〉を含む13名の視点によって、葉真中顕著『Blue』は進行する。
彼らが語るのは、奇しくも平成最初の日に生まれ、平成最後の日に世を去った、〈青〉という青年のこと。母親が彼の出生日の青空に因んで名付けたらしいが、記録には平成元年1月8日は雨とあり、〈無戸籍児〉として育った彼の存在自体、〈伝聞以上の証拠はない〉。
物語は平成15年、青梅市内に住む教員一家を当時31歳の次女が惨殺し、自らも薬物による中毒死を遂げた、通称〈青梅事件〉を軸に展開。そして15年後、平成の闇を丸ごと背負ったブルーの運命が、さらなる事件を引き起こすのである。
老人介護の暗部に迫ったデビュー作『ロスト・ケア』を始め、社会派ミステリーの新旗手として評価の高い葉真中氏。ちなみに本作は尾野真千子主演でドラマ化された話題作『絶叫』とも世界を共有し、時代と個人の関係や平成史そのものを本格クライムノベルに結実させた、刑事〈奥貫綾乃〉シリーズの第2弾でもある。