ライフ

定型的な弔辞へ釘をさすような京マチ子論【井上章一氏書評】

『美と破壊の女優 京マチ子』/北村匡平・著

【書評】『美と破壊の女優 京マチ子』/北村匡平・著/筑摩書房/1600円+税
【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)

 京マチ子が、つい先日亡くなったことは、ひろく報道された。彼女の主演映画が、戦後の日本映画に国際的な栄光をもたらしたことも、ふりかえられている。たとえば、『羅生門』や『地獄門』が、ベネチアやカンヌの映画祭で頂点をきわめた、と。そう、彼女は世界にその名を知られた、いわゆるグランプリ女優であった。

 しかし、一九五〇年代のそんな作品群は、彼女の演技に分裂をもたらしている。京マチ子をとりあげ、この本で一冊の女優論にまとめあげた著者は、そう書ききった。まるで、没後の定型的な弔辞へ、あらかじめ釘をさしておこうとするかのように。

 戦後、一九四〇年代に、彼女は肉体を売り物として、頭角をあらわした。均整のとれた肢体、とりわけ脚の魅力で世にでた女優だったのである。『痴人の愛』や『浅草の肌』、さらに『牝犬』などといった作品で。そして、彼女は肉体美のみならず、画面いっぱいに大きくうごく演技でも、観客を魅了した。

 いかにも戦後的な肉体派女優だが、役者としての資質も高く買われていたのだろう。彼女は、所作の少ない能面めいた顔立ちの女を演じる仕事にも、抜擢された。そして、その世界的な成功は、似たようなキャスティングを、彼女へもたらすことになる。欧米のエキゾチシズムによりそう、伝統的な日本美のにない手という役柄を。

関連キーワード

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン