1クールのドラマともなると、キャスティングや勢いだけでは乗り切れないもの。中盤に差し掛かれば作り込みの差が如実に表れてくる。ドラマ作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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『わたし、定時で帰ります。』(TBS系火曜日午後10時)の評判がうなぎ登り。ドラマ満足度調査(コンフィデンス)では第5話が84Pt(100Pt満点)と自己最高を更新し、さらに伸びそうな気配です。放送前の期待度は64Ptだそうですから、ぐんぐん視聴者を惹き付けていることが数字からも伝わってきます。
まず見所は、主役・東山結衣を演じる吉高由里子の巧みな演技。「あのイライラの感覚、わかるわぁ」「結衣みたいな人が会社にいてほしい」「私の考え方とどこか重なる」と共感をかきたてる。現実的には結衣のように、定時で帰ることを宣言するのは難しいとしても、「こうあってほしい人物」として視聴者を納得させる存在になっています。
眉毛や口元の表情、しぐさ、口調、考え方、行動。吉高さんご本人は「会社員の経験が一度もない」そうですが、ビジネスパーソンになりきり、しかしスーパーウーマンではない自然体のヒロインを出現させました。
でも、吉高さん1人でドラマを光らせることはできないはず。結衣の存在に光を当てているのが、3人の男の存在でしょう。
まず、結衣の上司・種田晃太郎を演じる向井理が魅力的です。種田という人物は複雑で仕事に没頭するあまり過労死寸前までいき結衣との結婚話も破局。しかし単なるワークホリック型人間かと思いきや、そうでもない。職場全体を観察し部下を思いやり、マネジメント力を発揮する成熟した仕事人の姿も見せていく。とは言ってもスーパーマンではなく、どこか陰りのある横顔。
これまでのお仕事ドラマに登場する「仕事ができる人」は、たいていハキハキしていて表情は豊か、完璧さが強調される人物でした。ところが種田は胸のうちに挫折体験を静かにしまっている。秘めたる思いもある。酔った際につい「(結衣が)今でも好きです」と直球で吐露してしまう純粋さも。労働だけにのめり込んでいるのではないもう一人の自分を感じさせる。向井さんの独特の陰翳ある演技が効いています。
種田を演じる向井さんに「ステキすぎてつらい」と絶賛する視聴者が続出し、種田が結衣を背負うシーンでは「種田さんにおんぶしてもらいたい」という悲鳴のような声があちこちから聞かれます。
一方で、結衣の婚約者・諏訪巧を演じる中丸雄一も実にいい。家事もでき穏やかな人柄、物わかりが良くフェミニンな諏訪は優等生。種田との「対比」を考えてよく練り上げられた役作りは秀逸です。