「通常は数か月経つと少しずつ心の変化が表れますが、もともと抑うつ傾向にある人は、立ち直れないこともあります。2か月を過ぎても心の変化がなければ、がん患者や家族の心のケアを専門とする精神腫瘍科や、心療内科など専門家に頼るのもいい。同じ立場の人が集まる遺族会に参加するのも、1つの方法です」
たとえば、知人から「いつまでもメソメソしていたら、亡くなった人も悲しむよ」と励まされた遺族が、逆に深く傷つくこともある。同じような経験をした者でなければ、理解できない悲しみもあるのだ。
「遺族会に参加し、ただ寄り添って、黙って話を聞いてもらうことが、心のケアにつながるのです。少し前向きになれたら、新しいスポーツや趣味にチャレンジするのもいいと思います。私自身は居合を始めました。体を動かしている時は、無心でいられる。頭をからっぽにすることも心の健康には必要です」
一周忌には、妻が描いていた油絵を集めて、画廊で個展を開いた。
「彼女を知る人たちが来て、絵を見ながら思い出話をして帰っていった。『これが一種のお葬式ですね』と言ってくださるかたもいて、妻と共同で個展をやるような感じでした。立ち直るうえで非常に大きな意味がありました」
知人から「写真を持っていると気持ちが楽になる」とアドバイスされ、実際に心が安らいだとも話す。
「今も手帳に写真が入っています。大事な講演の前に “行くぞ”と話しかけたり、山登りに一緒に連れて行って、頂上で景色を見せたりね…。よくふたりで訪れた奥日光の中禅寺湖にも行きました。妻がいつも座っていた場所に砂袋を置いてカヌーをこいでいると、妻がいなくても奥日光の自然の美しさはまったく変わらないんだな、と。そう思ったことは、10年以上経った今でも鮮明に覚えています。悲しみから立ち直るために2015年には約1か月かけてお遍路の道を600km歩いたこともあります」
妻を看取り、自身の最期も意識するようになった。
「私も家で死にたいと思っていますが、そのためには、できるだけ自宅で元気に暮らせるよう体を鍛えなければいけません。朝の日課は、そのためのトレーニングなのです」
※女性セブン2019年7月4日号