都市部を中心に増え続ける超高層住宅のタワーマンション。近年は通勤や買い物など利便性の高さから若いファミリー層も数多く住んでいるが、タワマンは子育てに向かない──とする様々なリスクも指摘されている。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)がある住宅ジャーナリストの榊淳司氏がレポートする。
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20階以上の集合住宅のことをタワーマンションと呼ぶ。最近では40階以上も珍しくはなくなった。60階前後のタワマンも日常的に建設されている。そもそも、タワマンは限られた敷地により多くの住戸を作れるところに意味があった。だから、本来は都心エリアの交通利便性の高い場所にこそふさわしい住形態である。
しかし、いつしかそういう原点が忘れ去られた。今では「タワマンに住む」こと自体が、人生の成功の証であるという価値観まで広がっている。だが、本当にそうだろうか?
私は最近『限界のタワーマンション』という著書を世に出した。タワマンという住形態について、多くの日本人は賞賛や憧憬の眼差しを向けているが、その向こうにはかなり不都合な真実が隠されているのではないか、という警鐘を鳴らしてみたのだ。
ここでは、その中で「子育て」について内容の一部を紹介してみたい。
タワマンに住む多くの日本人は、そこで子育てをすることに何ら疑問を持っていないだろう。これは私から見るとかなり不思議な感覚である。
私は極端な映画好きではないが、それでもこれまで一定数の作品は観てきた。特にハリウッド系の作品は好きなほうだ。アメリカの大都市にはトランプタワーを始めとして、日本風にいうところのタワマンが数多く存在する。しかし、中学生以下の子どもを育てている家庭がタワマンに住んでいる設定の映画を観た記憶がない。
ハリウッド映画に出てくる子育て家庭は、ほぼ郊外の一戸建てに住んでいる。男の子は野球かフットボールのチームに、女の子はチア部に入っているのがよくあるパターン。休日には試合があるので「見に来てね」と子どもに頼まれたお父さんが、忙しくて行けなくなって後で謝る、というのが定番の展開ではないか。