親が老いてできないことが増えてくると、とたんに子供世代は“介護者”になる。初めての“親を支える”立場に焦り、当の親の困りごとに、気づけずにいることもある。
今、首都圏を中心に生活支援サービスを行う『御用聞き』という会社が注目されている。“会話”を重視し、困っている“人”に寄り添い、多くの高齢者やその家族にも支持されているという。
彼らの仕事には、家族がつい忘れがちな“生活する人の視点”が生かされている。『御用聞き』の若き取締役、松岡健太さん(25才)に聞いた。
◆生活の小さなささくれを会話から見つけて治す
『御用聞き』のサービスは5分100円から。電球交換、瓶の蓋開け、「天袋にあるものを下ろして」といったものまで、普通の人なら5分もかからずできるが、高齢者など、それができない人にとっては厄介で、しかも人に頼みにくい些細な困りごとを解決する。
「こういった日常の困りごとを“生活のささくれ”と呼んでいます。一つひとつは大ごとではないけれど、そこには介護保険サービスなどでも届きにくい部分があるし、意外とご家族も気づきにくい」と松岡さん。
ある事例では、90代の独居の女性が、家族が依頼してリフォームしたトイレで最新のホルダーにトイレットペーパーを取りつけられず、床に置いて使っていた。別件の掃除で訪れた『御用聞き』のスタッフに、本当に恥ずかしそうに尋ね、ごく簡単な使い方を知って、大きく安堵したという。
「皆さんおそらく“そんなことで?”と思うでしょう。ぼくや『御用聞き』の若いスタッフも初めはそう思うのです。
しかし、高齢者のお宅に伺って、じっくり話をして初めて、“その人にとってとても困っていること”と、やっと気づける。ぼくらの仕事の要は会話。アナログの会話で、生活の中に埋もれているその人にとってのニーズを探し当て、どんなに小さな困りごとも、丁寧に解決することです」
確かに生活は小さな作業の連続だ。できるのが当たり前と思っていると、できないストレスには思いも及ばない。
「ささくれも放置すればジワジワ痛んでストレスになるように、些細な困りごとが重なると、意欲や喜びも失せて、生きづらくなると思うのです。ぼくらの仕事は病院での大きな治療ではなく、お母さんがやさしく絆創膏を貼る手当てのようなことです。でも今の時代、そこがいちばん必要とされているように思います」