6月末からアゼルバイジャンで開かれる世界遺産委員会で、大阪の「百舌鳥・古市(もず・ふるいち)古墳群」(堺市、羽曳野市、藤井寺市)が世界文化遺産に登録される見通しだ。同古墳群には、日本最大の前方後円墳「仁徳天皇陵」も含まれる。歴史作家の島崎晋氏がその意外なトリビアを解説する。
* * *
今や日本経済においてインバウンド、すなわち訪日外国人による消費が軽視できないものとなってきた。彼らの訪れる場所も多様化してはいるが、依然として大きな影響力があるのが「ユネスコの世界遺産に登録されたかどうか」である。大阪の文化遺産としてはこのたび初めて、「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産の仲間入りを果たす。
仁徳天皇陵は百舌鳥古墳群(堺市)に属し、百舌鳥耳原中陵(もずのみみはらのなかのみささぎ)、大仙陵古墳(だいせんりょうこふん)などとも呼ばれる。日本最大級の前方後円墳で、全長(486m)だけでいうならエジプトのクフ王のピラミッド(230m)や中国の秦の始皇帝陵(350m)を上まわる大きさである(堺市「世界三大墳墓の大きさ比較」より)。
現在では木々が生い茂っているが、完成当初は全体が葺石(ふきいし)で覆われ、周囲には1万5000基もの埴輪が並べられていたというから、さぞや壮観であったに違いない。
紀元5世紀頃の古墳時代中期に造られたこの巨大古墳には、どのくらいの工期、作業員数、費用がかかったのか。
大手建設会社の大林組が昭和60年(1985年)に試算したデータによると、古代工法で行なった場合、工期は15年8か月、作業員数は延べ680万7000人(1日あたりピーク時で2000人)、総工費は現在の価格で約796億円となる(埴輪製造の作業員と工費については不確定要素が多いため除外)。
一方、現代工法で行なった場合、工期は2年6か月、作業員数は延べ2万9000人(1日あたりピーク時で60人)、総工費は20億円となるが、試算時からすでに30年以上が経過しているため、最新の工法で行なえば、工期はさらに短くて済むはずである。
ところで、現在の大阪府から奈良県にかけては、百舌鳥・古市古墳群の他にも馬見(うまみ)、大和・柳本(おおやまと・やなぎもと)、佐紀(さき)、三島(みしま)などいくつもの古墳群が見受けられる。なぜ一か所ではなく何か所にも散らばっているのか。
王朝交替の痕跡とする学説が提唱されたこともあるが、都の位置自体が大きく動いていないことから、現在では否定され、単に巨大古墳を造営するに相応しい土地がなくなったからとする説が有力視されている。