2016年8月に「譲位」のお気持ちを発表された明仁天皇は、今年5月1日の皇位継承によって上皇陛下となられた。戦時下で過ごされた少年時代、史上初の民間出身のプリンセスとなる美智子さまとの出会い、戦争被害者の慰霊の旅、被災地訪問――国民の心に寄り添って歩まれてきた明仁天皇の半生を追うドキュメントコミック『明仁天皇物語』が完成した。古屋兎丸氏による美しく繊細なタッチで描かれた明仁天皇の物語に、多くの国民が心を打たれることだろう。
そんな『明仁天皇物語』の原作を担当したのは永福一成氏。どういった経緯で明仁天皇の半生を漫画化することとなったのか、お話をうかがった。
* * *
『明仁天皇物語』を描く直接的なキッカケとなったのは、この企画の発案者の編集さんからの依頼でした。3年前、陛下の譲位のご意向が明らかとなって以降、コミックの描き手を探していたとのことで、私がお話をいただいたのは昨年秋ですが二つ返事でOKしました。
私は今、『ビッグコミックオリジナル』の連載作品、能條純一先生の『昭和天皇物語』に脚本協力という形で関わらせてもらっていますが、皇室や天皇について取材や資料にあたっている中で、現在の上皇陛下の物語も漫画のテーマとなり得るんじゃないかとずっと思っていました。
昭和天皇を調べるにあたり、その関連で明仁天皇についても調べていたこともあり、基本的な知識は仕込んでいましたし、『明仁天皇物語』をコミック作品で描くなら他の作家さんがゼロからスタートするよりは、自分に多少はアドバンテージがあると思ったんですね。…といっても、最初に能條先生が切り開いてくれたテーマなんですけれど。
しかし、作品の題材が題材だけに原作・脚本が決まっても作画家がなかなか決まらず難航しました。そんな時、知人のフリー編集者・島田一志氏に相談したら、古屋兎丸氏を推薦してもらいまして。島田氏は以前、今はなき『ヤングサンデー』という青年誌に在籍していて、私と兎丸氏双方の担当だったことがあるのですが、その島田氏の当時の直接の上司が、この『明仁天皇物語』を企画した編集者だったんですから、これも何かの縁ですかね。
古屋兎丸氏は、もともと旧知の仲だったわけですが、彼は連載作品を抱える人気漫画家です。ダメ元で直接連絡したところ、最初は躊躇していましたが、翌朝に明仁天皇と美智子皇后の似顔絵をメールで送ってきてくれました。「似ているかな」という控えめのコメント付きで。その後は編集さんの説得で決まりました。兎丸氏は、こんな大変な作品の作画をよく引き受けてくれたと思います。今となっては、彼の画以外は考えられない作品に仕上がっていると思います。感謝しかないですね。
もう少し私自身の執筆動機を掘り下げると、明仁天皇の時代(昭和~平成)を独立した一つの物語として描いておきたかったという気持ちがありました。