1990年代に流行したアイドルコラージュ、いわゆる「アイコラ」は、2000年代になりネットの世界にも広がった。その多くは、芸能人(アイドル)の顔写真と別人のセクシーな写真を組み合わせるなど、様々な権利を侵害し、使用された被写体を深く傷つけるものだった。そしていま、AIの一種である「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク(偽物)」が合わさった「ディープフェイク」技術によって制作された動画によって、新たな被害が生まれつつある実態を、ライターの森鷹久氏がレポートする。
* * *
来年の大統領選や株価に重大な影響を与える可能性がある──アメリカ下院の情報特別委員会で、出席者が懸念したのは人工知能を使って偽の動画を作る「ディープフェイク」と呼ばれる技術についてである。
個人や一部のメディアが特定層に利益を誘導させ、相手を貶めるために嘘を流布させる「フェイクニュース」といえば、前回のアメリカ大統領選ごろから話題になったことも記憶に新しい。悪い意味での影響が大きすぎると、大手メディアが「フェイクニュース」を見分ける専門部隊を創設させるなど、情報戦争の様相を呈しているが、次は「ディープフェイク」を使った「動画」だというわけだ。
6月8日にインスタグラムへアップされた「フェイスブックの真実を明かす」という説明がついた15秒の動画は、その内容と、語っているかのように見える人物が人物だっただけに、世界に衝撃を与えた。
「フェイスブック創設者のマーク・ザッガーバーグ氏が“1人の男が、数十億人の秘密や暮らし、未来に関する個人データをコントロールできることを想像してみろ”と話しているように見える動画がSNS上に公開されました。氏がフェイスブック上の情報を”自由に利用できる”と話しているようなものでゾッとしますが、これがディープフェイク動画だったんです」(大手紙記者)
筆者も動画を見たが、ザッガーバーグ氏が話しているかと一瞬、錯覚をしてしまう。もっとも、しばらく聞いていると声が違う(実際には俳優が声をあてているのだという)ので、最終的には本物ではないと分かる。結局、この映像はアート作品のひとつだったため制作者から「ディープフェイク」動画であると公表されてネット世界のざわつきはおさまった。
だが、似たような技術を駆使した動画を見たとき、文章の冒頭だけを読んで全体を判断してしまうような人や、タイトルだけを見てすべてを早とちりするような人だったら、本物だと信じてしまいそうだ。
SNSユーザーらの手によってあっという間に「フェイクニュース」が拡散されてしまうのと同様か、動画という信ぴょう性もあいまって、それ以上の影響が出るおそれもある。米下院が公聴会を開き、SNS企業に対策の協力をよびかけるほどの“効果”は確かにあるのかもしれない。そしてこれは、IT大国アメリカで起きている対岸の火事ではない。都内の芸能事務所担当者が打ち明ける。
「おたくの女優のアダルト映像が流出している、と連絡があったのは昨年末ごろ。映像を見ると、確かに弊社に所属している女優・Xが男性と関係を持っている映像でした。しかしよく見てみると髪型がおかしく、映像も不鮮明。たまに顔が別人と入れ替わる。なんなんだと思いました」