社会派ドラマが“刺さる”時代だ。問題提起のありようは、ヒットか否かを分けるポイントにもなっている。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレポートする。
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知りあいの若者が「日経225先物取引で誰でも勝てるツール」のデータが入ったUSBを、何と「50万円」という大金で買わされてしまいました。実は首都圏の大学生や若い人たちの間で蔓延している、商材売りつけトラブル事例の一つらしい。USBを友達に売れば5万円入るという悪質なマルチまがいのようで、学生ローンによる多額の借金だけ残った人も多いというのです。
いったいなぜ、そんなものにひっかかってしまったのか。当人に話を聞いてみると、彼の口から出てくるのは不安ばかり。「コツコツ真面目に働いても10万円代の給料しかもらえない」「将来が不安」「金がなければどうにもならない」「一気に稼ぐ方法がないか」。
特に最後の一言が印象的でした。
「今、安倍首相が副業するように言っているの、あれ本当ですよね?」
国までが副業を推奨する時代。だから、先物取引を副業にと思ったらしい。
社会経験の少ない20代の若造が、大金を借り株の先物取引で利益を上げる? その思考の飛躍に驚かされますが、まさしくこれが今の社会の現実の断片です。
経済的に苦しく未来に夢がなく、少しでもラクして「勝ち組」になりたいと短絡的な願望を抱きドツボにはまる──そんな構図が透けて見えてきました。
今週スタートした杉野遥亮主演『スカム』(TBS火曜深夜1時28分・MBS日曜深夜0時50分)は、その意味でまさに時宜を得た社会派ドラマです。
若い世代の経済的焦燥感を映す鏡のようであり、中年視聴者にとっては新手の犯罪の内実を詳細に知るという意味で好奇心が刺激されますし、自分の子供世代が抱える危機感も見えてくる。
一方、犯罪集団のターゲットとなっているリッチ高齢者層の視聴者は、犯罪の手口がわかり生活防衛手段にもなりうるという、実にスリリングでヒリヒリする作品に仕上がっています。
原作はルポライター鈴木大介著による『老人喰い』(ちくま新書)。なるほど、この迫力は現場取材から来ているのか。詐欺に走る若者の実態を克明に取材したルポだけに、ドラマの中身も詳細でリアル。そしてどこか滑稽。現実とは、そういうものかもしれません。特に犯人たちが複数の役を演じ電話口で相手を騙す「寸劇」詐欺など、ドラマ内ドラマとして浮き上がるあたり絶妙です。