これから新幹線駅ができるなら、駅前に商業ビルを建てるなどの周辺整備をしようと地元が着手するのが普通だろう。ところが、北海道新幹線の新八雲駅(北海道二海郡、2031年開業予定)は、あえて何も新しく建造しない、北海道らしい絶景を楽しめる駅周辺の環境整備を行う予定だ。ライターの小川裕夫氏が、函館市と室蘭市の中間に位置する北海道酪農発祥の地・八雲町が駅からの眺めをセールスポイントにした「ポツンと新幹線駅」として独自路線を目指す狙いをレポートする。
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“夢の超特急”と謳われた新幹線が、初めて姿を現してから55年。当時の社会情勢は鉄道から自動車へのシフトが鮮明になっており、鉄道は斜陽化していた。
そうした中、国鉄は高速鉄道に活路を見出そうとした。しかし、鉄道ファンでもある作家・阿川弘之は新幹線を「ピラミッド、万里の長城、戦艦大和と並び世界の4馬鹿になる」と酷評。鉄道ファンでさえ、鉄道の行く末を案じていた。
しかし、蓋を開けてみれば新幹線は大成功。いまや国内のみならず、世界各国でも高速鉄道建設の機運は盛り上がっている。
政治家の立場から新幹線建設を推進した田中角栄は、早くから「新幹線は地域開発のチャンピオン」と称賛していた。そして、田中は持論である日本列島改造を実現するため、持ち前の政治力を発揮して全国各地に新幹線を延ばすことを構想した。
田中が「地域開発のチャンピオン」と形容したように、新幹線は地域振興に大きく寄与した。新横浜駅は駅前が一面の田んぼだったが、新幹線開業とともに開発が進み、いまやオフィスビルが立ち並ぶ大都会に変貌した。
「新幹線の停車駅なのに、駅前はまるでド田舎」と揶揄されがちな岐阜羽島駅も、実のところ駅前はそれなりのにぎわいを見せている。
そうした新幹線による地域振興の地域開発の力に着目する政治家は後を絶たない。また、地元経済界も「新幹線の駅ができれば、わが町は活性化する!」と新幹線に強く依存している。それら新幹線信仰が、しきりに誘致活動を展開する原動力にもなっていた。
人口減少や地方の過疎化が顕著になっている現在、地域活性化の起爆剤として新幹線に一縷の望みを託したくなる気持ちは理解できる。しかし、新幹線は万能ではない。新幹線の停車駅ができたからといって、必ず地域が活性化するわけではないのだ。
2016年に開業した北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅は、一日の平均乗車人員が33人(2017年度)。在来線時代は一日に利用者が1人いるかいないかという状況だったから、それに比べれば大幅増といえる。
だが、新幹線の停車駅に昇格すると、行政や周辺住民、観光関係者、地元経済界などから期待を一身に背負う。そして、それなりの施設を整備する必要に迫られる。