超高齢化社会を目前にして、医薬品量の適正使用に注目が集まっている。2019年6月中旬には、厚生労働省がガイドライン「高齢者の医薬品適正使用の指針」を公表。医療機関などに対する、高齢者への不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説くガイドラインは、薬剤を大量に処方する日本の現代医療への問題提起と取れる。
むだな薬は飲まないようにし、それぞれの薬についての適切な知識もできる限り持っておきたいものだ。そこで、ここでは胃薬、抗不安剤、認知症、薬骨粗しょう症薬についてのあまり知られていない事実をお届けする。
◆胃薬
鎮痛剤とともに出されることの多い胃薬は、場合によっては思わぬ副作用を生むことがある。多摩ファミリークリニック院長で家庭医療専門医の大橋博樹さんはこう言う。
「胃薬の中でも、特に『H2ブロッカー』と呼ばれる薬には『夜間せん妄』といって、寝言を言う、暴れるなどの副作用が起きることがあり、誤って認知症を疑われるケースもある。それらの症状は薬が影響しているので、服用をやめるとぴたりと止まる。薬の副作用で胃が荒れるのを防ぐために処方された胃薬そのものが悪さをするのであれば、本末転倒です。認知症のような症状が出ているのであれば、一度中止を検討すべきでしょう」
◆抗不安剤・睡眠薬
まさか胃薬でメンタル面への副作用が出るとは驚きだが、抗不安薬や睡眠薬といった薬においては、そういったリスクはさらに増加する。
「抗不安薬は処方のハードルが低い。『体がだるい』とか『肩がこる』といった訴えにも出されていて、気軽にのみ始める人は多い。ただし、依存性があるので、気づいたらやめられなくなっている。服用を停止すると、調子が悪くなってしまうので、さらに依存するという負のスパイラルに陥りがちです。
また、抗不安薬には、睡眠導入剤の成分も含まれるので、高齢のかただと夜間の転倒のリスクが高まるほか、ふらつきを訴えて別の病院にかかり、めまいの薬が追加で出るといった悪循環を引き起こすこともあります。徐々に減らす必要があるなど手間はかかりますが、取り組まなければならない減薬でしょう」(大橋さん)
たかせクリニック理事長・医師の高瀬義昌さんも声をそろえる。
「長年にわたって多量にベンゾジアゼピン系の抗不安薬を投与され、その結果として高齢になってから認知機能低下や転倒・骨折、せん妄を引き起こしているケースが多くみられます」
睡眠薬は、薬の種類を変えることで減薬につながるパターンが多いようだ。池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さんはこう語る。
「睡眠薬は比較的、耐性がつきやすいので、のみ続けるとどうしても量が増えてしまいがちです。また、さまざまなタイプの薬剤があり、体に合うか合わないかも人による。薬の量が増えてきたら、医師と相談してほかの種類に切り替えることで、薬の量を減らすことができます」