熱中症は、気温や湿度が高い、風が弱いなどの環境下で、体温調節が追いつかずに体温が過剰に上がることで起こる。頭痛やめまい、けいれん、失神などを起こし、脳や血液循環などにダメージがあれば命にもかかわる重大な病気だ。
そして同じ環境下にいても高齢者は、若い世代に比べて発症も重症化もしやすい。身近な家族が注意する必要があるのだ。帝京大学医学部教授・同大附属病院高度救命救急センター長の三宅康史さんに聞いた。
◆体を冷却しているのは血液。水分補給は欠かせない
「熱中症には、実は血液、血流が深くかかわっています」と言う三宅さん。血液は酸素や栄養分をのせて全身に運んでいるが、体温調節でも重要な役割を担っているという。
「体温が上がり発熱すると、皮膚が赤くなり、熱くなります。これは発生した熱を血液に移し、熱い血液が体表近くの毛細血管に広がって熱を放出して冷やしているのです。冷えた血液がまた体を巡ることで体温を下げる。つまり血液がスムーズに循環することで体温調節がうまくいきます。
人は通常、尿や便、汗、呼気からも水分を体外に排出しており、水分量が減ると血液の量も減り、ドロドロと流れが悪くなって効率よく熱を放出できなくなります」
このメカニズムから、人の体にとっていかに水分補給が大切かがわかる。
「高齢者は若い人と比べて、水分を蓄えておく筋肉量が少ないため、保持している水分量が少ない。また腎機能の低下のため、尿で水分を失いやすい。したがって血液の量も少ないのです。しかも全身に血液を勢いよく巡らせる心臓のポンプの力も弱い。
それゆえ暑い場所にいれば体温が上がりやすく、元気な若い人に比べて熱中症になりやすいわけです」
高齢者は、頻尿を気にして水分を控える傾向にある。夏はそれが命取りにもなるのだ。
「体内の水分が足りなくなると、普通はのどの渇きを感じて飲みものに手が伸びます。でも高齢者の場合は、この渇きにも鈍感になります。本人への意識喚起とともに、身近にいる人が気をつけて水分補給を促すことが必要です」
◆外出時は日よけと冷水補給。暑さ指数も要チェック
環境省が推奨する1日の水分摂取量の目安は、食事から1リットル、水やお茶などの飲みものから1.2リットルだ。
「人は常時水分を失い続けているので、摂取もこまめにする方が効果的です。特に暑さを避けられない屋外で過ごす場合は、“体の熱を冷ます”ことを考えて、冷たい水やお茶などがおすすめ。保冷ができる水筒に氷を入れた飲みものを準備しましょう。ただしこまめに少量ずつ。一度に多量に飲むとお腹に負担がかかります」