選挙戦さなかの7月9日、政府はハンセン病訴訟で差別に苦しめられた元患者家族への国の賠償を命じた熊本地裁判決を受け入れて控訴しない方針を表明し、「患者・元患者とその家族の方々が強いられてきた苦痛と困難に対し、政府として改めて深く反省し、心からおわび申し上げる」という首相談話を発表(12日)した。
野党からも「評価し、率直に歓迎したい」(玉木雄一郎・国民民主党代表)という声があがり、「選挙で安倍のポイントになった」(野党幹部)とされる。
皮肉なことに、この控訴断念をクローズアップさせたのが朝日新聞の誤報をめぐるドタバタだった。
〈ハンセン病家族訴訟 控訴へ〉
朝日は7月9日付朝刊1面トップで大きく報じ、国が控訴断念を表明すると「誤った記事を掲載したことをおわびします」という政治部長名の釈明と訂正記事を掲載したが、問題になったのは〈首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました〉と誤報の経緯を説明した内容だった。
朝日が指摘した「政権幹部」とみられているのが菅義偉官房長官だった。前日夜、朝日ほか数社の記者が菅氏と囲み取材を行ない、そこで菅氏が控訴を否定しなかったことから、朝日は「控訴へ」と打ち、それを読んだ安倍晋三首相が急遽、控訴断念を決めたという“官邸に嵌められた”説が広がったのだ。