音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、気鋭の若手、三遊亭わん丈が新作だけでなく古典のアレンジにも才能を発揮した『双蝶々(中)』初演についてお届けする。
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気鋭の若手、三遊亭わん丈。「スーパー前座」と呼ばれた彼が二ツ目に昇進したのは2016年のこと。圓丈門下だけに新作落語の面白さに定評があったが、古典のアレンジにも才を発揮。たちまち頭角を現わし、2018年には『お見立て』でNHK新人落語大賞の決勝に進出している。
この4月、わん丈はそれまで赤坂会館の50畳の稽古場で開いていた定期独演会「わん丈ストリート」を、客席数204の日本橋社会教育会館に移した。座布団40と後方にパイプ椅子が2列ほどという赤坂から一気に規模が大きくなったが、今のわん丈ならこれくらいが相応しい。
6月19日、日本橋社会教育会館で2回目の「わん丈ストリート」に出掛けた。今回の目玉は『双蝶々(中)』の初演。前回この会で「上」をネタ下ろししており、今回はそのダイジェストを演じてから「中」を演じる、とプログラムにある。
だがそこには仕掛けがあった。高座に上がったわん丈は、今夜に備えて母親相手に『双蝶々(中)』を演じたと言い、その際の母との会話を再現。そのやり取りに「上」の小雀長吉のエピソードを交えることで、ダイジェストの役割を果たしたのである。「マクラと思ったら本編だった」という楽しい趣向だ。