年を重ねると、体形が変わったり体が思うように動かなかったりして、“服を着る”ことが大変になる。選べる服も限られてきて、おしゃれを楽しむ気力も失せがちだ。しかし、「ファッションは人を前向きにする力がある」と語るのは、着脱しやすいおしゃれな服を提供する愛知県発のブランド『キアレッタ』主宰の前野いずみさん。
前野さんは、HPで服やファッション雑貨の販売、カウンセリングを行うほか、シニアファッションのデザイン、企画、コンサルティングなどを行っている。衰えて、いろいろなことを諦めかけた高齢者を服で元気にしているという。前野さんに服作りのアイディア、高齢女性を勇気づけるファッションの魅力を聞いた
「最近、小さいボタンがうまくはめられなくて…」「嫁がくれたスカーフ、こんなピンク色のは恥ずかしいわ」
前野さんが身近な高齢の友人たちとこんな話を交わす中で、「このおばあちゃんたちが楽に着られて、かわいくなる服を作りたい」と、クリエーター魂に火がつき、それがブランドを立ち上げるきっかけとなった。
「実はさらにその前に、私の母が五十肩で、うまくジャケットやシャツが着られず悲鳴を上げているのを見ていて、“こういう不便は服のデザインで解決できるはず”という思いがずっとあったのです。
いわゆる介護用ではなく、高齢者向けの服でもない。年を取っていろいろな変化があっても、今まで通りファッションを楽しめるように、デザインを工夫したのが『キアレッタ』の特長です」(前野さん、以下「」内同)
ターゲットである高齢者をじっくり観察すると、年を重ねるごとに肩が前に出たり、背中が丸くなったりする人が多いことがわかったという。
「体形が変わると、若い頃から着ていた服の着心地が悪くなる。サイズは変わらなくても体にフィットしなくなるのです。するとつい、ワンサイズ大きめや、体のラインが目立たない地味なデザインのものをダラリと着てしまう。
実際に一般的な高齢者向けの既製服は、総じて万人向けの黒やグレー系、無難なデザインのものが多いのです。でも、やはり自分の体に合った服はすっきりきれいに、きちんとして見えます。服は社会との接点です。高齢者にとっては特に“きちんと”は大切なことです」
そして体に不自由が出てくると、着脱も難しくなる。
「たとえば老親が服のボタンを留めるのに手間取るようになると、家族は待ちきれず、“もう!! やってあげる”と、すぐ手を貸してしまいがち。でも手に力が入りにくくボタンがつかめない、目がかすんでボタンホールが探せないだけかもしれません。
自分で服を着るということも、重要なプライドなのです。人にやってもらえば一気に受け身になってしまう。体に合ったお気に入りの服を自力で着ればうれしくて、散歩にも出掛けたくなる。それがファッションの力です」
◆認知症の人を助けるチュニックも
『キアレッタ』の服に生かされている工夫の数々を紹介しよう。これらは身近な家族が意外に気づかない老親のウイークポイントでもあるのだ。