多くのかき氷好きたちに「最高峰」「聖地」と呼ばれ、「一度は行ってみたい店」と賞賛されている店が埼玉県熊谷市にある。その店の名は、「かき氷屋慈げん」。店主の宇田川和孝氏は「かき氷界の神」「かき氷の人間国宝」と称され、ライバルであるはずの同業のかき氷店店主からも「かき氷店は年に一度、慈げんしか行かない」と言わせしめる。実際、同店では、10時の開店前に一日の整理券を配り終わってしまうことも少なくない。冬場でも客足は途絶えず、遠方の客は前泊して整理券を争奪する人もいるという。
かき氷を愛する人たちがなぜこれほど熱狂し、押し寄せるのか。他の店にはない慈げんのこだわりについては、宇田川氏の著書『真夏も雪の日もかき氷おかわり!』に詳しい。以下、同書の中の宇田川氏の言葉を紐解きつつ、「かき氷の聖地」の秘密に迫る。
◆特にかき氷好きだったわけではない
宇田川氏は2000年に慈げんを開業。当初は、「フライ」というお好み焼きに似た、熊谷の郷土料理を出す店として始まった。店の転機は6年目にやってきた。宇田川氏は次のように語っている。
「熊谷市が、暑い夏のクールダウン対策のひとつとして、『雪くま』というプロジェクトを始めたのが2006年のこと。発足に合わせて、行政の若手の方から声をかけていただき、「雪くまのれん会」の会長を引き受けることになりました。『雪くま』は、熊谷の水からできた氷を使い、ふわふわと雪のように柔らかく削ったかき氷。雪くまに参画する店舗は、さらに各店オリジナルのシロップを使うことが条件でした」(宇田川氏・以下同)