ドラマには欠かせない「イケメン」という存在。しかし最近、ドラマに登場するイケメンの傾向が変わってきているようだ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
* * *
昔から「夏枯れ」という言葉があるほど、夏ドラマはヒット作が生まれにくいと言われてきましたが、今年は視聴率、評判ともに、まずまずの結果が出ています。
なかでもネット上で目立つのは、女性視聴者の積極的な発信。制作サイドがそろえたイケメン俳優と、彼らが演じるキャラクターに、絶賛の声をあげているのです。注目すべきは、女性視聴者たちが、「イケメンだから絶賛しているというわけではない」ということ。彼らが演じている母性本能をくすぐられるような、ひと癖あるキャラクターに引かれているようなのです。
『凪のお暇』(TBS系)では、元カノのことが大好きながら、会うたびに暴言を吐いてしまい、一人で号泣する我聞慎二(高橋一生)と、腕にタトゥーがあるイベントオーガナイザーという怪しげな雰囲気ながら、相手を包み込むような優しさを持つ安良城ゴン(中村倫也)。
『偽装不倫』(日本テレビ系)では、さわやかな年下カメラマンだが、歯の浮くような言葉で不倫を持ちかける伴野丈(宮沢氷魚)と、ストイックなボクサーだが、好きな人には全力で愛情をぶつけて甘える八神風太(瀬戸利樹)。
『Heaven?~ご苦楽レストラン~』(TBS系)では、ヒロインの暴走に対応する有能ぶりを見せる一方、営業スマイルができないなどの不器用さを抱える伊賀観(福士蒼汰)と、天真らんまんな笑顔で愛される一方、空気を読まない発言でトラブルを起こす川合太一(志尊淳)。
◆“白馬の王子様”や“スーパーマン”は古い?
その他にも、『セミオトコ』(テレビ朝日系)では、当たり前と思われていることに感動する純粋さで女性を癒すセミオトコ(山田涼介)。『ルパンの娘』(フジテレビ系)では、泥棒であることに気づかず一途に恋人を愛し、けっきょく助けられてしまう鈍感な桜庭和馬(瀬戸康史)。『TWO WEEKS』(フジテレビ系)は、暗い過去を抱えて生きてきたが、娘の病気を治すためにボロボロになりながら必死に逃げる結城大地(三浦春馬)。
さらに、春から2クール連続放送している『あなたの番です』(日本テレビ系)でも、明るく心優しい性格ながら、妻を殺した犯人への復讐に燃える手塚翔太(田中圭)と、コミュニケーションが苦手で機械のようなクールなタイプだったが、徐々に人間らしさを見せはじめる二階堂忍(横浜流星)も含め、いわゆる“白馬の王子様”や“スーパーマン”ではなく、母性本能をくすぐるような、ひと癖あるキャラクターが目白押しです。
なぜ王道の“白馬の王子様”や“スーパーマン”ではなく、母性本能をくすぐるような、
ひと癖アリのキャラクターがそろっているのでしょうか。
◆身近な存在とみなして楽しみたい
その理由は、女性視聴者の楽しみ方が変わったから。
以前は“白馬の王子様”や“スーパーマン”のような「万能な男性キャラに憧れる」という楽しみ方が主流でしたが、そのような遠い距離感では物足りなくなったのでしょう。最近では、「欠点はあるが、愛すべき男性キャラに感情移入する」という楽しみ方に変わりました。
前述した今夏の男性キャラに対しても、「こういう人ってほっとけないよね」「問題はあるけど、私は好きだな」などのコメントが多く、身近な存在とみなして楽しんでいる様子が伝わってきます。
一方、男性視聴者の楽しみ方は、あまり変わっていません。以前も現在も「けなげ」「一途」「素直」などの女性キャラを好む人が多く、ドラマを見る目は極めて保守的なまま。ただ、現在のドラマ枠は、TBS日曜21時台の『日曜劇場』以外は、女性視聴者を軸に制作しているだけに、このような男性視聴者の好む女性キャラはほとんど登場しないのです。
母性本能をくすぐる“ひと癖アリ”の男性キャラは、SNSの反応が大きい上に、『凪のお暇』『偽装不倫』のように2人を対比させることで、「私はどっち派」と盛り上がることも可能。
今冬の『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)、今春の『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)なども、母性本能をくすぐる“ひと癖アリ”の男性キャラが複数登場したように、細分化する女性視聴者の嗜好に、制作サイドが対応しているのです。
◆同性の好みを知り尽くした女性漫画家たち