芸能

多部未華子 今「不機嫌なコメディエンヌ」をやらせたら最高峰

番組公式HPより

 笑顔で泣かせる芝居は難しいとされる。渋面で笑わせるのも同様だろう。いずれも役者の器量が問われる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 ドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK金曜午後10時)で主演を務める多部未華子さん。今「不機嫌なコメディエンヌ」をやらせたら最高峰と言える女優ではないでしょうか。

 多部さん演じる森若沙名子は経理部員、独身アラサー。貸借対照表のように数字がピタッと“締まる”瞬間が好き。領収書を通じて浮上する職場のさまざまな問題をクールに、時に論理的に、ズバっと解決していく。

 表情を崩さずニコリともせず上司に意見する超然とした仕事ぶり。「気持ちいい」「カッコいい」「胸がすかっとする」「憧れる」という視聴者の声が沸き上がっています。

 何よりも面白いのは、沙名子が「道徳家」ではないところ。モットーは「フェアでなくイーブン」。仕事としてきっちりイーブンに落とすのが美学であっても、正義を振りかざすわけではない。経理と聞くとつい不正を見逃さず正義感で相手を斬るキャラをイメージするけれど、沙名子はそう単純ではないのです。正しさが時に破壊にもつながるリスクを知っていてどこか奥行きというか優しさがある。正義漢は一見会社や他者のためのようで時に追求者自身の自己満足であることも知っている…。

「つじつまが合えばよし」という価値観の沙名子は、いわば喧嘩両成敗、ウィンウィンの関係構築、互いに納得できる落としどころを見つけようというリアリストです。考えてみると日本のドラマではあまり見かけないフラットなヒロイン像。そんな沙名子を、背筋を伸ばして思い切り演じている多部さんがいい。

 固い表情で滑舌良くきっちりと演技をすればするほど、周囲の人々のおろおろ感…新発田経理部長(吹越満)や吉村営業部長(角田晃広)らの可笑しさが浮かび上がる。上質なコメディとは、役者が「笑わそう」なんて自意識をみじんも見せずにとことん演技を追求した結果、見ている人がつい笑ってしまう作品のこと。

 このドラマは「不機嫌なコメディエンヌ」の多部さんをはじめ出演する役者たちがそのことを心得ています。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン