「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
結婚式を間近に控えた直子のふいな誘いをきっかけに、封印したはずの時が動き出す。故郷で久しぶりに顔を合わせた幼馴染みの直子と賢治は再び身体を重ねてしまう。欲望のままに生きていた青春の記憶と快楽をたぐり寄せるように、“身体の言い分”に抗うことなく互いを激しく求め合うふたり──。
直木賞作家・白石一文氏の作品初の映画化となる、8月23日公開の『火口のふたり』(R-18指定)。東日本大震災を受けて執筆したという同作品を原作に、極限状態で愛し合う男と女を通して《人の命が最も輝く瞬間》を描く。『Wの悲劇』『ヴァイブレータ』『共喰い』などでキネマ旬報脚本賞に5度輝く日本を代表する脚本家・荒井晴彦氏が脚本を手がけ、『身も心も』『この国の空』に続き3度目となる監督も務めた。
「原作を読んで、これはすべて女の企みなんじゃないかと。男はなんとなく頼りがなくて、口説くのもきっかけを作るのも何もかも女が引っ張っていっている。映画はあの頃に戻りたいと願う女がどう想いを成就させるかと作戦を練るシーンから始めようと、アルバムをめくる瀧内の手から入りました」(荒井氏)
アルバムに収められているのは、恋人同士が睦み合うモノクロームのスナップ。写真家・野村佐紀子氏が女性の目線で切り取った“あの頃”が直子の心情と重なって、切なく胸に迫る。