開幕まで1年を切り、東京五輪への期待は高まるばかりだ。期間中は1日92万人、計1010万人の観客が訪れると予測される五輪開催中に、もしM7クラスの「首都直下型地震」が襲ったら……。世界中からの関心が集まる中、「想定外だった」の言い訳は通用しない。起こり得る“最悪の状況”をシミュレーションした。
◆阿鼻叫喚の地獄絵図
2020年8月×日──東京五輪の陸上競技会場・オリンピックスタジアム(新国立競技場)は、約7万人の観客の熱気に包まれていた。トラックでは注目競技の決勝がいままさに始まろうとしている。
その時──「ドン!」と下から突き上げられるような衝撃がスタジアムを襲った。誰もが姿勢を保てず、シートや手すりに掴まろうとするが、激しい縦揺れでままならない。
揺れが収まると、観客たちはパニック状態となり、スタジアムの外を目指して出口へ一斉に押し寄せた。平和の祭典であるはずの五輪会場が、阿鼻叫喚の“地獄絵図”に変わった──。
もしも東京五輪の開催中に「首都直下型地震」が起こったら、甚大な被害を招きかねない。政府の中央防災会議によれば、M7.3クラスの都心南部直下地震が起こった場合、首都圏の死者数は最大で2万3000人にのぼると想定されている。しかし、それはあくまでも普段の東京を前提に導き出された被害推計である。東京女子大学の広瀬弘忠・名誉教授(災害リスク学)が警告する。
「東京で直下型地震が起きれば平時でさえ甚大な被害を及ぼしますが、全世界の選手団が約1万人、1日で最大92万人もの観客が集まる五輪期間中は、なおさら被害が拡大すると想定しなければなりません」