老後を不安にさせる指摘が相次ぐ。確かに備えは必要だろう。もちろん、物心両面においてである。コラムニストのオバタカズユキ氏が自ら体験したイベントについてレポートする。
* * *
あなたは何歳?
何歳に見られたい?
何歳になると高齢になる?
あなたは高齢になることを恐れてる?
人は何歳になっても成長できると思う?
たとえば、上記の質問を立て続けに投げかけられたら、どう答えることができるだろう。現在アラフィフの私は、人から年相応に見られればいいか、ぐらいに思っている。が、そのくせ高齢になって心身ともにいろいろ不自由が増えることをおそらく恐れている。定年のない自営業者ということもあり、何歳になっても成長したいのだが、実際にそううまくいくものだろうか。未来に対する不安感をつねに抱き、なのにふだんは蓋を閉めてそれを直視しないようにしている、気がする。
先日、東京の新宿で催された「ダイアログ・ウィズ・タイム」というイベントに参加してきた。
主催は真っ暗闇の空間を視覚障害者のアテンドで探検してみる「ダイアログ・インザ・ダーク」で有名なダイアローグ・ジャパン・ソサエティ。「ウィズ・タイム」は、70歳以上のアテンドが参加者と共に加齢について体験したり、語り合ったりする90分間の催しだ。2012年にはじめてイスラエルで開催されて以降、ドイツ、スイス、フィンランド、台湾、シンガポールでも開催されたとのこと。
冒頭の質問群は、イベントの開始間もなく、参加者たちがくぐる「時のトンネル」の壁面に書かれていた、たくさんの問いの中の一部である。投げかけられる直球の問いに戸惑う自分を感じながら、次の体験ステージへと進んでいく。
イベントでは、将来自分がなりたい高齢者像をたくさんの写真の中から選んで、その理由を話したり、70歳でエベレスト初登頂、80歳で3度目の登頂を果たした三浦雄一郎氏の語りのビデオを観たり、担当アテンド(私のときは80歳の男性「いずみ」さんだった)の人生体験に耳を傾けたりした。
一通りの体験をしてまず思ったのは、これほど真正面から高齢者と加齢について話したことはなかったかも、ということだ。超高齢化社会といわれて久しいこの国に住んでいながら、ここ最近の私が高齢者と会話らしいやりとりをしたのは、老いた両親とくらいだ。それも加齢や老いについて語り合ったわけではない。親にとっても子の私にとっても、すごく大事なことなのに、互いに歳を重ねて生きているという現実をきちんと言語化してこなかった。
それと同時になかなかショックだったのは、身体の老いのリアルである。イベントの序盤で参加者たちは両の足首に重りを巻きつける。男性の場合は1足あたり2キロのアンクルウェイト。高齢者の足の運びが思うようにならないのは、この重りをつけた感じに近い、とのことだ。
筋力トレーニングで使用経験のある人なら容易いのかもしれないが、初めてだとこれがかなり重い。参加者はイベント終了直前までこの重りをつけたまま、他の部屋に移動したり、ドジョウすくいの踊りを習ったりする。ドジョウすくいがこんなにハードな運動だとは想像もしていなかったし、ちょっとした段差でよろめいてしまうのだった。そのたびに、ああ、お年寄りが転倒して骨折し、寝たきりになるというのは、たとえばこういう危険が常につきまとっているからなのだな、と認識をあらたにした。