過激なものの言い方はSNSで多くの反響を集めるにはよいかもしれないが、その激しい言葉に引きずられて、冷静な議論からどんどん遠ざかってはいないだろうか。とかく批判一辺倒にさらされがちな音楽著作権の集中管理を行っているJASRAC(ジャスラック、一般社団法人日本音楽著作権協会)が先日、音楽教室へ潜入調査を行っていたことが報じられたときも、偏った意見ばかりが目についた。潜入調査は、やむにやまれぬ理由から数十年前から続けられてきた手法であることを、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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──カスラックは潰れろ!
──最低最悪の既得権益企業
ネット上に溢れるこうした罵詈雑言は、一般社団法人日本音楽著作権協会、通称「JASRAC」に向けられたもの。JASRAC職員が約二年間に渡り、一般人を装って音楽教室に通い「潜入調査」をしていたことが報じられると、やり方がフェアではないとして、大バッシングが巻き起こった。
いや、潜入調査が明らかになる以前から、ネット上ではJASRACに対する風当たりは強かったことは、ネットユーザーなら誰もが知るところであろう。音楽教室だけでなく、カラオケスナック、ライブハウスなどにもJASRACからの「請求」が届き、音楽文化を守るはずの団体の行動が、音楽文化を衰退させている、と言われてきたのだ。
例えば、あるアーティストがライブハウスで持ち歌を歌っても、JASRACへの著作権料が生じてしまう、といった噂もささやかれている。筆者がいくつかのライブハウス、ショークラブに問い合わせをしても、実際にそうした請求が届いたという例には行きあたらなかったが、音楽教室にまで「請求する」のは確かに、やり過ぎだと言われても仕方ない気がしないでもない。
また、音楽教室への著作権料徴収については、従前から話題になっていたことで、手段を選ばず「スパイ」まで送り込んだのか、という印象で語られている向きも確かにあろう。JASRAC側は、あくまで潜入調査を正当な方法だとアナウンスしているが、実際にJASRAC職員はどう考えているのか? 実は過去にも「カラオケGメン」なる調査員が存在していたことを明かしつつ覆面捜査をせざるを得ない実情について証言する。
「潜入調査は、何十年も前からやっています。まだカラオケが現在のような通信式ではなくレーザーディスクだった時代には“カラオケGメン”なる調査員がいました。夜な夜なスナックやクラブに出向いては職員だとバレないよう調査をし報告書を書いて、悪質なら通知を出す。経費で飲み食いをして、弱小事業主であるスナック店主やクラブオーナーをいじめている、みたいな指摘もありますが、それは違います」
こう話すのは、1990年代から十数年間JASRACで働いていた職員。現在のカラオケ機器は通信タイプで、客が一曲歌うごとにしっかりと著作権料がカウントされる仕組みだが、レーザーディスクが用いられていた時代は、厳密に言えば、一曲歌うごとに店や歌った客が申請されない限り、著作権料を支払わなくてもバレなかった。こうした行為が横行したが故に、やむなく潜入調査が行われるようになったというのだ。さらに、JASRACという財団法人の存在意義が「音楽の著作物の著作権を保護」することである以上、こうした調査をせずに放っておく、という手段は取られにくいのだという。