闇営業問題に端を発した吉本興業をめぐる一連の騒動では、「そんなに事務所が嫌なら辞めればいい」といった意見も見られた。しかし現実には、事務所に所属することは芸能人にとっては“生命線”なのだ。芸能事務所でマネージャーをしていた経験のあるライターの井上絵美里氏が解説する。
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7月22日に行われた吉本興業・岡本昭彦社長(52)の会見のあと、事務所とタレントのギャランティの配分の割合が話題になった。
岡本社長は「会社が9で、タレントが1ということはない」と主張。それに対し多くの芸人から「これしかもらってない」といった“告発”が相次ぎ、さらに大平サブローらベテラン芸人からは「嫌なら辞めろ」といった反論が飛び出した。
確かに、1か月に数千円、あるいは数百円しかもらっていない芸人も少なくないだろう。ならば事務所を辞めてフリーになればいいのかといえば、そうではない。
一般的に、事務所やマネージャーは“舞い込む仕事”の管理をしたり、タレントのスケジュール調整をしたりといった役割があると思われているが、何より重要なのは「売れるチャンス」を作ることなのだ。その意味でタレントにとって事務所に所属することは大事なことと言える。
ある事務所でマネージャーをしていた私が体験した「事務所の仕事」を紹介しながら、若手芸人が事務所に所属するメリットを挙げてみる。
無名の若手タレントの場合、事務所に入っていればCMやテレビのオーディションの情報が入る。クライアントが求める条件に合えば、オーディションを受けることができる。 オーディションの情報は、会社あてに連絡が来ることもあるし、テレビのスタッフや広告代理店の担当者などから直接マネージャーに「こんなタレントいませんか?」と推薦を依頼されることもある。
私がマネージャー時代にテレビのスタッフから依頼されたのは、「タレントのアンケートを集めてほしい」という内容だった。
そのアンケートは、番組に必要なランキングを作成するといった単なる情報を求めただけではなく、アンケートを記入したタレントが、どれほどの知識やエピソードがあるかを確認するための、いわば書類選考のようなものだった。実際に、アンケートの回答を詳しく答えた一部の芸人が、番組に出演するための面接まで進んだ。
当時、新人マネージャーだった私にアンケートを依頼したスタッフは、収録現場で名刺交換した相手だった。「こうやって芸人にチャンスが与えられるんだ」とわかる、印象深い出来事だった。その一件から「テレビのスタッフから見て、声をかけやすいマネージャーになろう」と思ったものである。