国内

海賊版サイト 被害を訴える漫画家が少なかった理由

海賊版に悩みながら被害を訴えづらかった(イメージ)

海賊版に悩みながら被害を訴えづらかった(イメージ)

 海賊版サイトの問題、とくに漫画をめぐる問題は、作品を勝手に掲載されている漫画家が、声をあげづらい雰囲気があると言われる。被害者なのは間違いないのに、なぜ、萎縮して過ごさねばならないのか。ライターの森鷹久氏が、身動きが取りづらいと嘆く漫画家が置かれている状況などについてレポートする。

 * * *
「ハッとしました。私の漫画のファンではなかったのか、私の作品を愛してくれていたのではないのか。体中の力が抜け、涙が溢れた。私のやっていることは何なのだろうと」

 絶対匿名を条件に筆者の取材に応えてくれたのは、漫画家の田宮サトシさん(仮名)。漫画誌の連載経験もあり、単行本も発売されている。十代から十数年、漫画家のアシスタントなどを務め、やっと掴んだ「漫画家」の夢。そんな彼の思いを打ち砕いたのは、とあるネット上の書き込みだった。

「私の作品の登場人物をSNSのアイコンにしているユーザーが“漫画村復活を望む”と書き込んでいたのです。たったそれだけ、そう思われるかもしれません。でも、作品もキャラクターも、私にとっては子供みたいなもの。その子供を愛してくれているはずの人が、そうした考えだったのかと」(田宮さん)

 日本中の漫画作品を、著作権者に無断でネット上にアップロードしていたとして「漫画村」の実質的管理人と見られる男がフィリピン当局に拘束された。被害額は3000億円規模とも言われているが、漫画村の閉鎖に関して、ネット上ではにわかに信じがたいような書き込みが散見されたのを、筆者も確認している。

「漫画なんかタダで読ませろ、出版社からギャラが出ているだろう、そうした書き込みが少なくない数ありました。漫画村の復活を望む人たちの声です。彼らは、法律を知らない小中学生かもしれない。著作権云々を彼らに説いても無駄かもしれない。でもそれは、作品だけでなく、クリエイターそのものを殺す行為なのだと、何とか理解して欲しかったのです」

 何度も繰り返されている説明だが、漫画家は、皆が思っているほど高給取りではない。雑誌連載の原稿料に、単行本を出版してその売上げを得て、ようやく仕事だと胸が張れる。デジタル化がすすんでいるとはいえ、漫画を描くのは時間も技術も必要な作業だ。その結果、生まれた漫画が一人でも多くの人に親しまれるようにと、最近は漫画家みずからがネットで自著の宣伝をすることも珍しくない。

「多くの人に読まれたい」というのは、漫画家や作家が抱く当たり前の感覚だろう。時には「タダでもいいから読んでほしい」と思うことだってあるかもしれない。筆者の原稿ですらそうだ。しかし、筆者の取材などとは比べ物にならないほどの労力をかけて生み出された作品について「タダで読ませろ」と言われてしまったら、心が折れてしまうのも痛いほどわかるつもりだ。しかし、こうした声、当たり前の権利を主張する声は、特に漫画村をめぐる騒動においては、なぜかネット全体に広がっているとは言いづらい状況にある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

公開された中国「無印良品」の広告では金城武の近影が(Weiboより)
《金城武が4年ぶりに近影公開》白Tに青シャツ姿の佇まいに「まったく老けていない…」と中華圏のメディアで反響
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
林芳正・官房長官のお膝元でも「10万円疑惑」が(時事通信フォト)
林芳正・官房長官のお膝元、山口県萩市の元市議会議長が“林派実力者”自民党山口県連会長から「10万円入りの茶封筒を渡された」と証言、林事務所は「把握していない」【もうひとつの10万円問題】
週刊ポスト
本格的な活動再開の動きをみせる後藤久美子
後藤久美子、本格的な活動再開の動き プロボクサーを目指す次男とともに“日本を拠点”のプラン浮上 「国民的美少女コンテスト」復活で審査員を務める可能性も 
女性セブン
24時間テレビの司会を務めた水卜麻美アナ
《水卜アナ謝罪の『24時間テレビ』寄付金着服事件》「まだ普通に話せる状況ではない」実母が語った在宅起訴された元局長の現在
NEWSポストセブン
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン
スシローから広告がされていた鶴瓶
《笑福亭鶴瓶の収まらぬ静かな怒り》スシローからCM契約の延長打診も“更新拒否” 中居正広氏のBBQパーティー余波で広告削除の経緯
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・HPより 写真はいずれも当該の店舗、スタッフではありません)
《丸ごとネズミ混入》「すき家」公式声明に現役クルーが違和感を覚えた点とは 広報部は「鍋に混入した可能性は著しく低い」と回答
NEWSポストセブン
西武・源田壮亮の不倫騒動から3カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武・源田壮亮の不倫騒動から3カ月の現在》元乃木坂の衛藤美彩、SNSの更新はストップのまま…婚姻関係継続で貫く「妻の意地」
NEWSポストセブン
亡くなる前日、救急車がマンションに……
《遺骨やお墓の場所もわからない…》萩原健一さん七回忌に実兄は「写真に手をあわせるだけです」明かした“弟との最期の会話”
NEWSポストセブン
試合後はチームメートの元を離れ、別行動をとっていた大谷翔平(写真/アフロ)
【大谷翔平、凱旋帰国の一部始終】チーム拠点の高級ホテルではなく“東京の隠れ家”タワマンに滞在 両親との水入らずの時間を過ごしたか 
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
NEWSポストセブン