半年という長期間、視聴者を魅了し続けるのは並大抵のことではない。金字塔とも称される作品と比較されるとなれば更にハードルは上がる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
* * *
中だるみ感が半端ない、盛夏の『なつぞら』。7月末~8月上旬は…なつ(広瀬すず)と坂場一久(中川大志)結婚を決め、報告のために北海道へ。すると夕見子(福地桃子)と雪次郎(山田裕貴)もいきなり結婚の運びとなり、せっかくだから一緒に結婚式を、と全員集合。唐突にたくさんの登場人物が集まっての大団円的な演出にびっくりです。
特に8月10日第114回は、オープニングのタイトルバックもすっ飛ばし、最後に主要キャストがズラリ揃って並び、エンドロールで出演者・制作者・協力者などの名前が流れ主題歌が響いた。あれ?、最終回かしらと錯覚した視聴者も多かったことでしょう。
しかしまだ8月。9月末まで2か月近く残っているのになぜ、このような演出? ネタ切れで仕方なく、過去のいろいろな登場人物を呼び寄せ顔見せ興業、閑話休題としたのでしょうか。
唐突といえば、象徴的なのが夕見子のキャラ崩壊ぶり。これまで見せられてきた人物像は、いったい何だったのと思わざるを得ない。
幼い時から夕見子となつは「姉妹」として育ち、二人は対照的な性格として描かれてきました。ひときわ強いキャラの夕見子は、親の反対を押し切って北海道大学へ進学、「女性も他者に依存せず自立するんだ」と元気よく啖呵を切って東京へ。男性と駆け落ちし同棲。相手はジャズ批評家を目指す男で、時代を映すように学生運動だのモダンジャズの革新性だのと匂わせたシーン、あれはいったい何だったのか。
まあ、若いカップルが破局を迎えるのは仕方ないとしても、夕見子は恋人と別れた後北海道へ戻り、なつが結婚するタイミングで唐突に雪次郎に告白され公開プロポーズ。何の違和感もなく即結婚となりました。そして雪次郎は「夕見子さんをください」と親に土下座。「ください」とまるでモノのように言われて何とも思わないキャラだったとしたら、それまでの夕見子の立ち振る舞いは自動消去? これを完全なるキャラクター崩壊と言わずして、何と言えばよいのでしょう。それに、2人の恋愛関係なんてほとんど描写されていない。雪次郎の恋愛といえばむしろ女優・亀山蘭子(鈴木杏樹)にぞっこんだったシーンの方が印象を刻んでいます。
半年という長丁場の朝ドラ。登場人物の成長ぶりを一緒に楽しみ味わうというのが朝ドラ特有の視聴方法だとすれば、突然過去にいなかったような別のキャラクターになられても、戸惑います。
『なつぞら』が不運なのは、『おしん』が同時期に再放送されていることかもしれません。今BSプレミアムでは2作を連続視聴でき、『なつぞら』と『おしん』はいやがおうでも比較されます。かつてはそれが相乗効果となり互いを引き立てていた。けれど、今ではそうとも言えない残念さ。