亡くなった人物に財産があれば、近親者はそれを受け取る権利があるが、“負の遺産”があっても誰かが継承することになる。死んだ妻に損害賠償債務が課された場合、夫は払う義務はあるのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
妻の急死後、義兄が訪ねてきて彼女が老人施設に入所中の母親の貯金など600万円を勝手に使い込んでいたというのです。妻が義母のお金の管理を任されていたのは知っていましたが、まさか使い込みをしていたとは……。義兄は私に返してほしいと主張。やはり私が返金しなければいけませんか。
【回答】
使い込みが事実だと仮定します。奥さんは義母さんの財産を侵害した不法行為をしたことになり、使い込んだお金を賠償する責任がありました。しかし、夫婦の一方が第三者に対して不法行為をして損害賠償を負う場合に、他方配偶者が責任を負うかといえば、その不法行為を一緒にしたか、もしくは手助けなどをして共同不法行為者になる場合でなければ、責任を負うことはありません。
例外的な場合としては、使い込んだお金をソレと知っていながら、あるいは容易にわかるのに、気付かずにもらったりすると、被害者の損失と因果関係のある利得を法律上の原因を欠いて受け取ったと解され、被害者に不当利得として返還を命じられることもあります。こうした状況でなければ、被害者である義母さんから、直接損害賠償請求や不当利得返還請求などを受ける心配はありません。