【著者に訊け】長崎尚志氏/『風はずっと吹いている』/1800円+税/小学館
令和の時代に入って初めての夏。長崎尚志さんの『風はずっと吹いている』は、謎解きの面白さを存分に活かしながら、原爆投下とは何だったのか、人類が核を持つことの意味も改めて考えさせる、熱量のこもったミステリー長篇だ。
広島県西部の山中で〈人骨一体と、頭蓋骨ひとつ〉が発見される。奇妙な組み合わせだが、白骨体は広島を訪れていたアメリカ人女性だとわかる。〈太平洋戦争の最中、アメリカ軍の中には、日本人の頭骸骨をコレクションする兵隊が多数存在し〉、彼女は、亡き父親が持ち帰った頭蓋骨を遺族に返すため来日していた。
引退した国会議員と、闇を感じさせるその秘書。金庫番だった美しい老婦人。右翼団体の代表。複雑な過去を秘めた関係者が捜査線上に浮かび上がる。七十余年の時を往還しながら、広島県警の捜査員と、息子の犯罪で県警を辞めざるをえなくなった元刑事が真実のゆくえを追う。
長崎さんは、父の仕事の関係で、小学一年生から四年生まで広島に住んでいたことがあるそうだ。広島という土地が好きで、この七、八年は、市内にマンションを借りて月に何日かを過ごしている。
「ぼくの母親は、空襲を体験していたのですが、広島にいるときも『被爆されたんですか』って割とよく人に話を聞く人間だったんです。ぼくは子供でしたから、一緒に話を聞いても、すごく悲惨に思う部分と何も感じない部分、もういいやって飽きた部分、いろいろあった。ちゃんと勉強しないといけないのに、やり残した宿題みたいな感じのままで、東京に転校してしまいました」