真夏にあえて激辛料理を食べ大汗をかく──それもまた、猛暑をやり過ごすためのスタイルの一つだろう。巷では、四川料理などの激辛料理を食べ歩く「マー活」が流行の兆しを見せている。中国史が専門で各国料理の歴史にも詳しい作家の島崎晋氏が、各国激辛料理について解説する。
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「婚活」「朝活」「タピ活」など、「〜活」という新語が次々と出てくるなか、昨今は「マー活」という言葉もよく耳にするようになった。「マー活」の「マー」とは麻婆豆腐の「マー」のこと。「タピ活」が流行のタピオカドリンクを好んで飲むことなら、「マー活」は「マー」を好んで食べることだ。
世界の激辛料理といえば、トウガラシをふんだんに使用したメキシコ、韓国、タイ、ミャンマー、ブータン、中国の四川などの料理が有名である。ヨーロッパではイタリアン・パスタのアラビアータくらいだろうか。その中で「マー活」の対象と言えるのは、四川料理だけである。「麻辣(マーラー)」という言葉はよく知られているが、「辛さ」を意味するのは「辣(ラー)」のほうで、「麻(マー)」は「痺れ」を意味する語、すなわち「マー活」は「痺れる料理を味わう」ということなのだ(狭義では「四川料理を食べる」「痺れる麻婆豆腐を食べる」といったことを指す人もいるらしい)。
トウガラシが中米原産であるのに対し、「痺れ」の源である花椒(ホアジャオ)は四川省原産で、単に山椒と呼ばれることもあるが、日本原産で鰻重に欠かせない山椒と区別するため、唐山椒とか中国山椒、四川山椒などと呼ばれることもある。
日本人が長らく親しんできた甘辛い味が特徴の麻婆豆腐は「料理の鉄人」として名高い陳建一氏の父で、「日本における四川料理の父」と称される陳建民氏が日本国内で入手しうる材料だけで作れないかと試行錯誤のすえ考案したもの。
それに対し、「マー」が効いている本場の麻婆豆腐は舌が痺れてビリビリするほどで、日本人にとっては「万人受け」とは言えないだろう。ちなみに、本場の麻婆豆腐が味わえる筆者一押しの店は、四川省成都市に本店があり日本にも数か所の支店がある『陳麻婆豆腐』だ。
一方、中国には、「四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる」という言葉がある。四川料理よりも湖南料理のほうが辛く、貴州料理はそのさらに上を行くという意味である。