国内

山口組に存在した在日コリアン差別 「殺しの柳川」も怒り

ソウルの国立墓地を訪ねた柳川次郎(出典:日韓親善友愛10年小史)

「ヤクザもんの社会は差別がない。終戦直後のあの時代でも人間同士の付き合いがある。そういうところがあったから飛び込んだわけですよ」。これは山口組きっての武闘派・柳川組を率いて、最強の在日ヤクザとして恐れられた柳川次郎(本名ヤン・ウォンソク。1991年没)の言葉である。ヤクザには差別がない──。本当にそうだったのか。ジャーナリスト竹中明洋氏が綴る。

 * * *
 戦後ヤクザ史に残る抗争の一つに明友会事件というものがある。1960年、まだ神戸を拠点とする一勢力だった山口組が、大阪の新興勢力で在日コリアンを中心とした愚連隊・明友会を殲滅した事件である。きっかけはこんな具合である。

「よう、バタヤンやないか。一曲歌ってくれんかいな」

 ミナミのクラブ「青い城」で山口組三代目の田岡一雄が歌手の「バタヤン」こと田端義夫らと会食していたところ、同じ店にいた明友会の幹部らが田端に歌うよう強要した。それを制止した田岡の側近らと乱闘に発展してしまう。田岡のメンツを潰された山口組は明友会への報復に乗り出した──。

 この明友会潰しには、山口組傘下の各組が大量に投入されたが、なかでも尖兵として最前線で戦うよう命じられたのが、傘下に入ったばかりの柳川組だった。ともに在日を中心とする明友会と柳川組の戦いは同士討ちといってもいい。柳川組の攻勢は凄まじく、3週間もしないうちに明友会会長と、幹部15人が指を詰めて全面降伏した。

 大阪府警は殺人や殺人未遂で山口組側の56人を検挙したが、このうち半分近い24人が柳川組の組員だった。この功績によって若頭・地道の舎弟から田岡の直参に昇格した。「殺しの柳川」の異名は日本中に轟くようになる。

 しかし、朝鮮半島をルーツとする同胞同士の争いは、在日社会では極めて評判が悪かった。

 柳川の側近の一人は、当時の柳川の心境をこう慮る。

「あの事件の時は会長も苦しかったと思いますよ。同じ民族同士、なんで戦わんとならんのかいう思いと、本家の意向にも逆らえんという思い。あの人は、そういう心境をあまり表に出さん人ですけども、相当に悩んだはずですわ」

 このときの後悔は、終生、柳川にまとわりついた。それから24年ほど経て、勃発したのが山口組最大の内紛「山一抗争」だ。竹中正久の四代目組長就任にともない、それに反対する組長代行の山本広らが山口組を脱退して、一和会を結成。両派が血で血を洗う抗争を展開した。

 既に柳川組を解散し、堅気となっていた柳川は、柳川組の流れを汲む組を中心に、この抗争に関わらないよう説いて回ったという。なぜそのような振る舞いをしたのか。元秘書によれば、背景には明友会事件があるという。

「明友会いうのは、早い話が大阪の朝鮮人の愚連隊です。ここをどうやって叩くかという時に、田岡三代目の姐さんが『朝鮮人同士で闘わせたらいい』いうて柳川組にやらせたという話が柳川さんのもとにまで伝わってきとったのです。柳川さんは姐さんに対する不満をよう言うてました。竹中さんの四代目継承を姐さんが強く推したことが跡目争いの背景にあったと聞き、柳川さんはこの抗争に我慢ならなかったのではないかと思います」

関連記事

トピックス

「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
大型特番に次々と出演する明石家さんま
《大型特番の切り札で連続出演》明石家さんまの現在地 日テレ“春のキーマン”に指名、今年70歳でもオファー続く理由
NEWSポストセブン
NewJeans「活動休止」の背景とは(時事通信フォト)
NewJeansはなぜ「活動休止」に追い込まれたのか? 弁護士が語る韓国芸能事務所の「解除できない契約」と日韓での違い
週刊ポスト
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん(Instagramより)
《美女インフルエンサーが血まみれで発見》家族が「“性奴隷”にされた」可能性を危惧するドバイ“人身売買パーティー”とは「女性の口に排泄」「約750万円の高額報酬」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン
悠仁さまの通学手段はどうなるのか(時事通信フォト)
《悠仁さまが筑波大学に入学》宮内庁が購入予定の新公用車について「悠仁親王殿下の御用に供するためのものではありません」と全否定する事情
週刊ポスト
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・Instagramより 写真は当該の店舗ではありません)
味噌汁混入のネズミは「加熱されていない」とすき家が発表 カタラーゼ検査で調査 「ネズミは熱に敏感」とも説明
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン