音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭小朝が昨年、34年ぶりに新橋演舞場で行った独演会についてお届けする。
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日本武道館で独演会をやった唯一の落語家であり、歌舞伎座などあらゆる大ホールを制してきた春風亭小朝。昨年34年ぶりに新橋演舞場に戻り、7月と12月に独演会を行なったが、今年は6月27日に「第三回春風亭小朝独演会」を開いた。新橋演舞場は「熱海五郎一座」や劇団☆新感線の「いのうえ歌舞伎」などでたまに行くが、ここで落語を観るのは2006年の談志・志の輔親子会以来だ。
三遊亭王楽が『紙入れ』を演じた後、小朝の一席目は『算段の平兵衛』。揉め事を解決することで生計を立てている平兵衛なる男が主役の上方落語を、舞台を江戸に置き換えて演じたもので、盆踊りの場面には鳴り物も入る。基本的には桂米朝の型に沿っていて、最後も米朝と同じく「ここからが面白いが、今日はここまで」と講談調で切る。地の部分での、脱線しながら漫談調で観客に語りかける小朝特有の平易な語り口が特徴的で、名主を殺した平兵衛が遺体を始末して大金をせしめるドタバタをわかりやすく演じた。
二席目の『井戸の茶碗』は通常の「五十両のうち屑屋に十両、千代田卜斎と高木作左衛門は二十両ずつ」という分け方ではなく、屑屋には手間賃の二両のみ。確かにこのほうがリアルかもしれない。
百五十両のかたに千代田の娘を高木に嫁がせる案は、屑屋が「怒らないでくださいよ」と恐る恐る切り出し、それを聞いた千代田が「あながち悪くないかもしれん。患ってからというもの、娘の先行きが案じられてならない」と受け、「娘がそなたに声を掛けたのも何かの縁」と屑屋に縁談の仲立ちを依頼する。この演出は見事だ。屑屋が「お嬢さんの似顔絵を描いてまいりました」と高木に見せると「綾瀬はるかに瓜二つ」と色めき立つのはご愛嬌。