平成3(1991)年に馬連の発売が始まって高配当が続出、多くのファンはさらなる高配当が見込める馬番連勝単式馬券、つまり「馬単」の導入を期待していた。競馬歴40年のライター・東田和美氏が、ワイド勝負の醍醐味についてお届けする。
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中央競馬で「馬単」の発売が始まったのは、馬連の発売が始まってから10年以上も後。この新馬券が最初に導入されたのは平成8年の大井競馬。昭和61(1986)年、日本で初めてのナイター競走を開催、新しいファンを獲得してきた地方競馬の雄である。
大井では馬単より先に三連複の導入を目指していたが、当時の農水省から「いたずらに射幸心をあおる」という反応を受けた。馬連で20万円以上の配当が出てもなお(出てしまったから?)、「射幸心」は強い抑制力を持っていたのだ。ワンツーを当てるのは馬連と同じだからか、馬単スタート当時の大井でも、高配当が出ることをあからさまにPRするのではなく、「ハラハラ、ドキドキ、スリリング」という中途半端なキャッチフレーズだった。
平成9(1997)年、中央競馬の売上は4兆円に達するが、すでに都市銀行や大手証券会社が破綻するなど、景気下降は避けられない社会状況。翌10(1998)年には売上を2000億円近く減らし、以後10年以上は前年比マイナスとなる。そんな中、平成11(1999)年秋に導入されたのが拡大連複、つまりワイドだった。配当こそ少なくなるが、1着3着、2着3着でも“的中”ということで、より幅広い層のファン獲得を目指したのだろう。
この呼称を共同で募集した大井ではすでに春からスタートしており、ファンは比較的スムーズに入ることができたようだ。大井ではこのワイドも馬単以前の導入を考えていたが、やはり農水省から「勝っていないのに(2着3着なのに)払戻があるのはおかしいのではないか」という反応で先延ばしになっていた。新馬券の導入、すんなりとはいかない。