大阪市北区の天神橋筋商店街は、その2.6㎞という日本一の長さと、ぶらぶら歩いているだけで楽しくなるテーマパークのような雰囲気が自慢だ。
天神橋1丁目から同7、8丁目まで600軒はあるという店舗を冷やかしながら歩くうちに、黄地に黒で屋号を書いたかなり目立つ看板を掲げた酒屋が見つかる。“天三(てんさん。天神橋3丁目)の立ち呑み(角打ち)屋”として浪速っ子に親しまれている『明昭屋』(めいしょうや)だ。
平成の30年が過ぎ去ったことで、遥かに遠くなってしまった明治、そして昭和。昭和生まれが大半を占める角打ちファンの心を一瞬でノスタルジックな気分にさせるような屋号にまずは惹かれる。
「明治屋という問屋で働いていた祖父が、昭和2年に独立して始めた店なのでこの屋号にしたと、祖母に聞いたことがあります。でも、令和の今なら明治と昭和の元号をいただいたと考えたほうが楽しいかもしれないですね」と笑う3代目の森山高充(たかみつ)さん(53歳)。
店の入り口辺りは、販売用の酒が並ぶ完璧な酒屋さん。そこを抜けて中ほどに行くと、大きな洋酒樽を立てた角打ち用テーブルが4卓。これがまた、つい囲みたくなるような雰囲気を醸し出していて、酒呑みを誘惑してくる。そこを抜けると、気持ちよく肘をついて10人ほどが飲めるカウンターが奥へと延び、その左側に沿って調理場というレイアウト。
角打ちスペースとしての奥行きはかなりあるし、人気の店だけに客の姿もいつも多めだ。
「手ごろな安さでうまい酒が飲めること以上に、やっぱりタカ(高充)さんが魅力なんですよね。週に2日は助っ人が一人いるけど、あとはどんだけ混んでも一人でさばいててね。“いけねえ、揚げシューマイ頼まれてたんだ”とか呟きながらの慌てぶりが可愛いし、いつも一生懸命な姿に惚れてます」(60代、薬剤師)