日本市場を制圧した“巨大企業”の内実に迫るべく、ジャーナリストの横田増生氏は「東京ドーム4個分」の広さを誇るアマゾンの小田原物流センターに潜入した。注文された商品を倉庫から探し、梱包・出荷エリアに受け渡すピッキングという作業に時給1000円で従事した著者が目撃したのは、2000人ものアルバイトたちが置かれた過酷な労働環境だった。
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アマゾンの小田原物流センターでは、9時ちょうどから朝礼がはじまる。アルバイトの大半は、遅刻を恐れ、5分前になるとあらかた集合している。リーダーの男性が、マイクを持って話す。
「昨日、川崎で左手を20針も縫う重大事故が発生しました」として、事故の模様の詳細と、どうすれば事故が防げるのかについて説明した。梱包時に、段ボールカッターで梱包材を強引に切ろうとしたため、カッターの先端部分が折れ、その勢いで梱包材を押さえていた左手を切って、縫ったという。
そのあとで、「昨日の成績は、PTGの平均は81%でセッション率は80%でした。PTGとセッション率は、いずれも目標に達していませんので、目標を達成するよう努力して下さい」とつづけた。
PTG(パーセンテージ・トゥ・ゴール=「次のピッキングまであと何秒」の指令をクリアした割合)はピッキングの目標値であるという説明は、アルバイトの初日に聞いていたが、セッション率とは何か。もちろん、こうした作業現場では、細かい説明を求められる雰囲気ではない。詰所に張り出された、前日のピッキングのランキング表を熱心に見ていた女性のアルバイトに訊いてみた。
「セッション率? 私もよく知らないのよ。このセンターの立ち上げ直後からずっと働いているんだけれど、一度も説明してもらったことはないわね」という返事だった。