とある石鹸メーカーの経理担当と他部署の社員たちとの人間模様を中心に、働く人のリアルな葛藤を描くNHKドラマ『これは経費で落ちません!』(金曜夜10時)の人気がジワジワと上昇中だ。
第5話(8月23日放送)では、多部未華子演じる経理女子・森若沙名子が「職業的な倫理観」と「同僚への思い」との間で思い悩む。ある時、森若が、先輩経理部員・田倉勇太郎(平山浩行)の親友で同僚でもある熊井良人(山中崇)の不正の兆候に気付いたことがきっかけだ。
熊井は単身赴任先の静岡工場で石鹸の製造機械のリース契約を任されていた。ところが、その契約金額が前年までの270万円から290万円へと値上げされていたことを森若が発見。日頃、熊井の経費の使い方に不信な点があったことから、森若は「不当に高い値段で取引し、先方から裏金を受け取っているのではないか」との疑念を持ち、直接、静岡工場に出向いて真相を確かめようとする。
製造機械のリース元であるハマヤマ製作所の社長を森若が問い詰めたところ、熊井と共謀していたことが判明。熊井は退職することになってしまう。
「最初は数百円の領収書のごまかしだったのが、次第に金額が大きくなり、大事に発展することはよくある」というのは、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』(日本経済新聞出版社)など、経理に関する著書の多い「フリーランスの経理部長」前田康二郎氏だ。
「電車賃をごまかしたりしても数百円単位で咎められることは、ほとんどありません。それに味を占めて、次は飲食店での数千円、数万円というように段々金額が高くなり感覚が麻痺していく。そうした経理的な不正が社外で公になることは滅多になく、多額の横領事件など大事になってはじめて表沙汰になります。
というのも、異常に高額な案件でなければ、経営者は外に出さず内々に処理しようとします。言うまでもなく、自社の信用問題になるからです。多くの場合、経理部長や人事部長、担当部署の部長、社長などとの話し合いの末に本人に引導を渡し、『自己都合』で退社という扱いにしているのです。『自分の周囲で不正なんて起きたことがない』と多くの人が思い込んでしまうのも仕方ありません」(前田氏)
現実社会では、自らの不正が同僚に暴かれ糾弾される場面はどうもイメージしにくい。また、なかには「会社のカネは自分が稼いだもの」という意識の人もいて、“経費のごまかし”については罪悪感が希薄になるのかもしれない。だが、ドラマのようなケースは歴とした犯罪だ。