映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の横内正が、俳優座が制作協力に入っていた縁で出演した『水戸黄門』の初代「格さん」役や、19年間にわたった『暴れん坊将軍』での大岡越前役について語った言葉についてお届けする。
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横内正は一九六七年、NHK朝の連続テレビ小説『旅路』に主演、一躍その名を世間に知らしめる。
「その前の年に樫山文枝さんが主演した『おはなはん』が大ヒットして、その後で抜擢されたものだから名前が一気に全国区になりましたね。
新劇という六本木の村の中だけに留まっていたらまた別の人生が開けたかもしれません。ただ、それが外にわっと広がったものだから、ここで僕の行く方向性は変わっていきました」
六九年にスタートした『水戸黄門』(TBS)では初代「格さん」を演じている。
「東野英治郎さんが主演をおやりになるので、俳優座が制作協力に入っていたんです。僕は当時座員だったから『出ろ』と言われたら『嫌だ』とは言えなかった。ましてや主演が東野さんで、中谷一郎さんもいて、そういう流れの中で時代劇の世界に入っていくようになりました。
時代劇は普通のナチュラルな芝居に比べて飛躍があります。時を飛ぶことができる。それにセリフにも調子があります。そういう躍動感が面白かった。
僕自身が密かにずっと考えていた、演劇を基本にした純芸術至上主義からはかなり遠いところまで世界が拡散していきましたね。お芝居にはこんな世界もあるんだと味わうことができた。
ただ『これがやりたい』という自分の思い込みだけでは成立しない『お仕事』の中に自分自身をどう生かすか。何もかもをマイナスに捉えるのではなく、そういう作品からでも、いただけるエッセンスはいただこうという気持ちで吸収していきました。ですから、カチンカチンの芸術至上主義的な演劇だけでなく、お芝居でいかにお客さんに楽しんでもらえるかという意識を持てるようになりました」