東京・下北沢の本屋B&Bで開催されたイベント(8月5日)は、チケットが発売されるや瞬く間に売り切れる大盛況ぶり。こうしたイベントにはほとんど登壇しない作家・山田詠美さんが、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんの依頼に応えて実現した一夜限りのそれは、大きな反響を呼んだ。題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。中川さんの元上司である、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが司会を務めた2時間にわたる鼎談の中で、2人が「なっとらん、ドーン!」と机を叩いた事柄とは…。
◆ネットニュース編集者とアナログ作家の接点は?
嶋:山田さんと中川くんは今日が初対面なんですよね。
中川:はい。僕が今会いたい人、ということで山田さんをお招きしました。僕、もう今日は緊張しちゃって、楽屋ですでにビール4杯飲んじゃってますからね(笑い)。
嶋:中川はこう見えてもネットニュース隆盛の中で大活躍してきたネットニュース編集者なんですけど、山田さんはネットは一切しないんですよね?
山田:私はアナログ人間なのでネットにはまったく興味ないんです。でも中川くんの本は好きで、新刊が出たら必ず買って読んでいます。許せることと許せないことのラインが自分と似ている気がして。以前のインタビューで、「気になってる書き手は?」と聞かれて彼の名前を答えたから、それを誰かが目に留めて伝えてくれたのかな。
中川:いや、その記事を自分で見つけて「どういうこっちゃ?」とびっくりしました(笑い)。僕は山田さんの新刊『つみびと』についてぜひお聞きしたかったのですが、これは2010年の大阪2児置き去り餓死事件に着想を得ていますよね。風俗店で働いていたシングルマザー(下村早苗)が、幼い2人の子を部屋に放置して餓死させた事件です。婚活殺人の木嶋佳苗でも、後妻業殺人の筧千佐子でもなく、なぜ山田さんは彼女を描こうと?
嶋:あの事件が起きた当時、彼女はまだ23歳でしたよね。
山田:そう。今、名前が挙がった女性たちよりも、彼女はずいぶん若い。そんな若い彼女が子供を置き去りにして遊ぶ時の心理を想像したら、多分、心を麻痺させないとやっていられなかっただろうと思うんです。
でもどこかで何かの選択を間違えなければ、あんなひどい事件を起こさなかった可能性だってあるでしょう。女性なら誰しも、そういう危うい瞬間が人生にあることを理解できるんじゃないかな。
中川:大阪で起きた事件ですが、小説では舞台を北関東にしていますね。