平成以降最悪の35人が死亡した放火事件から約1か月。この夏が終わる前にもう一度見つめたい──。
7月18日、京都市伏見区にあるアニメ制作会社「京都アニメーション(以下、京アニ)」第1スタジオが放火され、男女35人が死亡、34人が重軽傷を負った。黒く煤けた外壁と焦げ臭さがいまだに残る現場近くには8月末まで献花台が設置され、多くの人が訪れている。
日本を代表するアニメ制作会社である京アニ。『涼宮ハルヒ』シリーズ、『らき☆すた』、『けいおん!』など、たくさんの人気作品を生み出している。
そんな京アニの強みが、「物語が与える力」だ。それをよく示すのが2018年放送のテレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という作品だ。
この物語では、戦争で両腕を失って義手となった少女が手紙の代筆屋となり、多くの依頼者と出会う。最初は人々の感情が理解できない少女だったが、多くの人と接するうちに人間の心を知り、「愛している」という言葉の真の意味を理解していく。映画ライターの杉本穂高さんはこう説明する。
「戦争を背景にした悲しい物語ですが、喪失感を抱えた人間がいかに立ち直るかが描かれていて、見終わった人は人生に対して前向きになれます。生きていれば理不尽なことに遭遇したり、大切な人を失うこともありますが、京アニ作品はそうした困難な状況においても、『世界を肯定する力』を与えてくれるんです」
京アニが描く「美しい風景」や「生き生きとしたキャラ」もまた、人々に大きな力を与えるものだ。
「京アニは“私たちの住んでいるこの世界をいかに美しく描くか”を追求してきたスタジオです。そのために実在の場所をロケハンし、現実をカメラで切り取る以上に美しい絵を描くのです。
京アニが美しい背景を描くのは、私たちの生きているこの世界が実は美しいことを伝えるためであり、生き生きとしたキャラを描くのは、美しい世界を生き生きと過ごすことの素晴らしさを伝えるためです。確かにアニメは『絵』ですが、京アニの作品に宿る力は『絵空事』ではありません」(杉本さん)
それゆえ私たちは、京アニが織り成す世界に魅了される。
事件後、京アニの八田英明社長は再起に向けたメッセージを出した。