動物写真家・岩合光昭さんがメガホンをとった映画『ねことじいちゃん』の作者・ねこまきさんが描いた最新シリーズ『トラとミケ いとしい日々』。どて屋「トラとミケ」を舞台に織りなす人間味たっぷりの猫だらけマンガだ。現在3刷を数えるロングセラーの本書に寄せられる感想で多いのが「くさくさした心がほっこりする」「癒やされる」といったものとともに「美味しそう!」「昔、親が作ってくれた料理を思い出した」というもの。料理愛好家・平野レミさんはこの作品をどう味わったのか。話を聞いた。
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やっぱり食事って大事よね。『トラとミケ いとしい日々』を読んで、改めてそう思いました。この作品には美味しそうな食べ物が次々と登場するから、料理欲が湧いてきます。でも、ただ料理欲が湧くだけじゃないのが、このマンガの魅力でしょう。ページをめくっているうちに、すっかり忘れていた、食にまつわるほのぼのした昔の思い出が次々と蘇ってきて懐かしくって。
第9話「歳末の候」で、トラとミケに北海道から新巻鮭のクリスマスプレゼントが届きます。そのシーンを読んで、まだ若い頃、年末になると夫へのお歳暮で、新巻鮭が何本も自宅に届いたことを思い出しました。やっと1本捌いた! と、ホッとしたのも束の間、また次の新巻鮭が届いて、連日のように新巻鮭と格闘していたものです(笑い)。当時に比べると、今は新しいキッチンツールがたくさんできて、料理もずいぶん楽になりましたね。
飲食店で出す料理も機械化が進んでいます。私自身、主婦の皆さんがもっとラクに、楽しく料理できるようにと手抜き料理を推奨していますし、便利なキッチンツールも開発していますので、機械化にも手抜きにも異論はありません。でも、この本を読むと、たまには一から十まですべて手作りにこだわる時間をかけた料理もやっぱりいいな、と思います。手間をかけた分はちゃんと、心はこもりますからね。
例えば、第1話「陽春の候」に出て来る、名古屋名物のどて煮をめぐるエピソードもそう。ある日、仕込みの時間に業者の人が来て「串打つのしんどいやろ? うち 串打ち済みの商品もあるよ?」とトラに提案します。でもトラは、「機械で打った串じゃ 同じ味は出せないのよっ」と頑として断る。高齢の体で1本1本、手で刺すのは、ひと苦労でしょう。それでもトラは、お父さんからの味を大事に受け継ごうとしているんですね。
料理には、どんなに合理化が進んでも忘れたくない作り方があります。第3話「向暑の候」に登場したぬか漬けもその一つ。トラは、お庭で採った甘夏の皮を干して、ぬか床に入れます。なぜだと思います? 昔から、ぬか床にはみかんや柚子の皮を入れると旨みが増して、色みもきれいになると言い伝えられているんです。日本には、食に関する古き良き知恵がたくさん残っています。今の若い人がこの本を読んだら、きっと素晴らしい発見があると思いますよ。