各界の昭和スターたちが集った六本木の伝説のゲイバー「吉野」。この店で38年間ママを務めた吉野寿雄氏(88)は、芸能界だけでなく、スポーツ界や文壇にいたるまで幅広い交流を持っていた。三島由紀夫をはじめ昭和の文豪たちの“創作意欲”も掻き立てていたという吉野ママが、その交遊録を明かす。
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〈美術評論家の青山二郎、時代小説作家の村上元三など、名だたる文豪たちと交流があった吉野ママ。中でも、特に深い付き合いがあったのが三島だ〉
先生と初めて会った時、見た目がタイプじゃないから正直興味がなかったの(笑い)。小説家って知らなかったし、当時はまだ新人だったからね。でも毎晩、お店で顔を突き合わせて喋っているうちに親しくなって、『仮面の告白』(1949年刊)っていう作品を書いているって聞いて、あぁ小説家なんだって思ったのよ。
先生って豪快で、独特な笑い方をするの。お酒を飲んでは「ガハハハ!」って笑って、私たちのバカ話を楽しんでいたわ。
〈三島のほかにも、文学界、芸術界から、そうそうたる面々が店を訪れ、吉野ママにしか見せない「素顔」を見せた。すでに還暦を超えていた作家・江戸川乱歩も豪快な飲みっぷりを披露していたという〉
乱歩先生は、十七代・中村勘三郎さんと「やなぎ」に来てくださっていたの。高名な作家だと知ってはいたけれど「おじいちゃん」くらいにしか思わなかった。