「紅茶飲む人は?」「はーい」。とある放課後。優雅なティータイムが開催されているのは、なんと中学校の校長室。応接セットのテーブルには子供たちが用意した温かい紅茶のカップが並び、校長とひとときのティーブレークを楽しんでいた。制服の子もいれば、ジーンズ姿の子、華やかなワンピースに茶色く染めた髪をきれいにセットした子もいる。思い思いの服装や髪形ではしゃぎ合う笑い声は、廊下まで響き渡っていた──。
ここは“校則をやめた学校”として注目を集める東京・世田谷区立桜丘中学校。始業時間以外はチャイムも鳴らなければ定期テストもない。服装や髪形も自由。さらには教室ではなく廊下で勉強してもいいし、校長室にも出入り自由。そんな環境にいるのだから、生徒はみな、友達と楽しく学校生活を送っているのだろう。
しかし、そう単純ではないようだ。教室で楽しそうにおしゃべりする友達を尻目に廊下から見つめている子、仲よし3人組の楽しそうなおしゃべりかと思えば、その中でひたすらうなずいているだけの子、遠くから校長室の様子を見つめているのに、絶対に近づいてはこない子。
「どんな子であっても、子供同士のいさかいや人間関係のほころびは多少なりとも起こります。クラスの雰囲気になじめなくて教室に入りづらい生徒もいれば、普段友達のように接していた私にさえ突然距離を置こうとする生徒もいます。時には生徒同士の殴り合いに発展することだってあります。だからといって、けんかをなくそうとは思いません。むしろ人間関係に波風が立つことが、ソーシャルスキルを身につけるには必要不可欠だと考えています」
こう話すのは10年かけて自由で多様な学校をつくりあげた同校の校長・西郷孝彦さん(65才)だ。
しかし今、世間では子供のけんかは減少傾向にある。
◆「空気を読む」ことが重視される
別の中学に勤務して6年になる女性教員(30才)が言う。
「長い教員生活の中で、けんかする生徒を指導したことは、数えるほどしかありません。特に、殴り合いなんてまず起こらない。ちょっとしたからかいや悪口はあるけれど、表立って生徒同士が言い争うような口げんかすら、ほとんど見かけません」
ITジャーナリストで教育評論家の高橋暁子さんは、その背景にはSNSの発達が関連していると分析する。