ライフ

【平山周吉氏書評】帝国陸軍の最期を看取った男の評伝

『非凡なる凡人将軍下村定 最後の陸軍大臣の葛藤』篠原昌人・著

【書評】『非凡なる凡人将軍下村定 最後の陸軍大臣の葛藤』/篠原昌人・著/芙蓉書房出版/2000円+税
【評者】平山周吉(雑文家)

 敗戦後に就任した最後の陸軍大臣下村定の伝記である。中国大陸の戦線から呼び戻され、東久邇宮内閣と幣原内閣で、幕引きの大役を務めた。本書の著者・篠原昌人は下村を「清算会社の社長」と表現している。下村「社長」と同期(陸士20期)の大将には、牛島満(沖縄戦で自決)、吉本貞一(敗戦後自決)、木村兵太郎(東京裁判で絞首刑)がいた。下村の前任者・阿南惟幾は「一死、大罪に謝す」と割腹自殺していた。

「生涯に三度自決を覚悟した」(下村の娘である演出家の河内節子の証言)という下村は、生きて「謝す」役割を担った。敗戦直後の帝国議会での答弁に、下村の立場は端的に表現されている。

 戦中の反軍演説で著名な斎藤隆夫議員の質問に下村大臣は答えた。「所謂軍国主義の発生に付きましては、陸軍と致しましては、陸軍内の者が軍人としての正しき物の考え方を過ったこと、特に指導の地位にあります者がやり方が悪かったこと、是が根本であると信じます。(略)殊に許すべからざることは、軍の不当なる政治干渉であります」。大きな拍手が起きた答弁は、予定の原稿にはない下村「社長」の「心底からの叫び」であった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

すき家がネズミ混入を認め全店閉店へ(左・時事通信フォト、右・HPより 写真は当該の店舗ではありません)
【こんなに汚かったのか…】全店閉店中の「すき家」現役クルーが証言「ネズミ混入で売上4割減」 各店舗に“緊急告知”した内容
NEWSポストセブン
江口容疑者と自宅
《16歳女子高生の遺体を隠し…》「6人家族だけど、共働きのご両親が不在がちで…」江口真先容疑者(21)が実家クローゼットに死体を遺棄できた理由
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
X子さんフジ退社後に「ひと段落ついた感じかな」…調査報告書から見えた中居正広氏の態度《見舞金の贈与税を心配、メッセージを「見たら削除して」と要請》
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレが関東で初めてファンミーティングを開催(Instagramより)
《新メンバーの名前なし》ロコ・ソラーレ4人、初の関東ファンミーティング開催に自身も参加する代表理事・本橋麻里の「思惑」 チケットは5分で完売
NEWSポストセブン
中居氏による性暴力でフジテレビの企業体質も問われることになった(右・時事通信)
《先輩女性アナ・F氏に同情の声》「名誉回復してあげないと可哀想ではない?」アナウンス室部長として奔走 “一管理職の職責を超える”心労も
NEWSポストセブン
濱田淑恵容疑者の様々な犯罪が明るみに
【女占い師が逮捕】どうやって信者を支配したのか、明らかになった手口 信者のLINEに起きた異変「いつからか本人とは思えない文面になっていた」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
「スイートルームの会」は“業務” 中居正広氏の性暴力を「プライベートの問題」としたフジ幹部を一蹴した“判断基準”とは《ポイントは経費精算、権力格差、A氏の発言…他》
NEWSポストセブン
大手寿司チェーン「くら寿司」で迷惑行為となる画像がXで拡散された(時事通信フォト)
《善悪わからんくなる》「くら寿司」で“避妊具が皿の戻し口に…”の迷惑行為、Xで拡散 くら寿司広報担当は「対応を検討中」
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”4週連続欠場の川崎春花、悩ましい復帰タイミング もし「今年全休」でも「3年シード」で来季からツアー復帰可能
NEWSポストセブン
騒動があった焼肉きんぐ(同社HPより)
《食品レーンの横でゲロゲロ…》焼肉きんぐ広報部が回答「テーブルで30分嘔吐し続ける客を移動できなかった事情」と「レーン上の注文品に飛沫が飛んだ可能性への見解」
NEWSポストセブン
佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ
「スイートルームで約38万円」「すし代で1万5235円」フジテレビ編成幹部の“経費精算”で判明した中居正広氏とX子さんの「業務上の関係」 
NEWSポストセブン