【書評】『ヤットコスットコ女旅』/室井滋・著/小学館/1200円+税
【評者】内田剛/三省堂書店有楽町店副店長。1969年生まれ。NPO法人本屋大賞実行委員会理事で設立メンバーのひとり。出版業界でベストセラーの仕掛け人として知られ、これまでに作成したPOPの枚数は5000枚以上。「POP王」の異名を持つ。
こんなに幸せ気分にさせてくれる本は珍しい。〇〇〇ルーペを使わなくても字が大きくて読みやすさ抜群だし、医薬部外品ではあるがこの軽妙さに腰痛が一時和らいだほど(あくまで個人の感想です)。読むビタミン剤とも言える本書から伝わるのは、やっぱりムロイさんはとんでもなくオモロイということだ。
「旅は道連れ世は情け、足は靴擦れ夜はお酒」とは誰が言ったか忘れてしまったがそんな軽口もつい出てしまうほど問答無用に楽しめて、風呂場でもないのに鼻歌(BGMはCDアルバム『8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~』より)が漏れてしまうくらい愉快痛快爽快な気分に包まれた(逆に電車の中や病院など静かな公共の場所で読む時には細心の注意が必要である)。
旅は人生に例えられるが確かにその道中は思いがけないことの連続だ。誘惑あれば迷惑もある。テンションも激しく揺れ動く乱気流状態。しかしサプライズの数だけ旅が魅力的になるのも真実である。すっかりオバサンになったとは言っても元気ハツラツ。ムロイさんの旅も、時には見てはいけないものを見てしまったり、壮絶な神秘体験にドキドキハラハラヒヤヒヤしたりと、もちろん予想外の出来事に満ちている。
いい意味でミーハー的な好奇心旺盛さで“何かがある”オーラに果敢に近寄り、さらにそのお人柄の良さがあらゆる人種と現象までをも油断させて引き寄せているのだろう。止まらない地元・富山愛にソフトクリームラブもご愛敬。電車の車内アナウンスに面白がるこの気づきはもっと世界を平和にさせるはずである。