9月5日、韓国紙「朝鮮日報」日本語版に違和感を覚える記事が掲載された。「北朝鮮が咸朴島に日本製レーダー設置、仁川空港・仁川港を探知」との見出しで、〈北朝鮮が西海北方限界線(NLL)近くの咸朴島に探知距離30-60キロの日本製レーダーを設置したことが4日までに分かった〉と伝えている。
咸朴島(ハンバクト)とは朝鮮半島西側、韓国と北朝鮮の間にある無人島だ。記事では、9月4日の国会の国防委員会全体会議で、北朝鮮が咸朴島を軍事要塞化している動きが報告され、これが「9・19軍事合意」(2018年9月19日に北朝鮮と韓国の間で結ばれた軍事的な緊張緩和のための合意)に違反するかどうかを巡り、国防委員会では激しい議論になったと報じている。
しかし、この記事に違和感を抱くのは、韓国政府関係者の言葉として〈咸朴島に設置した日本製レーダーを識別した〉と書きながら、北朝鮮が日本製レーダーを所有していることについては何の疑問も呈していないことである。国連による経済制裁が続き、2017年12月以降、電子機器や機械類などあらゆる工業製品について、北朝鮮への輸出は国連制裁違反になる。
「なぜ北朝鮮は日本製レーダーを所有しているのか?」、「なぜ韓国政府はそれを把握したのか?」といった疑問が次々に湧いてくる。
記事が伝える「北朝鮮が日本製レーダーを設置」は本当なのか。国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネル元委員で『北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録』の著書がある古川勝久氏に聞いた。
「この記事には日本製とする証拠が挙げられていません。あくまで一般論ですが、北朝鮮は日本製品を好んで使用します。国連の過去の調査で、北朝鮮人民軍の海軍の艦船には、日本のA社製の漁労用レーダー(海上の他船やブイ、鳥などを捉える)が設置されていたことが確認されています。ただし、設置方法にも誤りがあったようで、果たして軍事的目的にどれほど資するのかは不明ですが。もし日本製レーダーが事実と仮定すれば、自衛隊が使用する軍事用レーダーが北朝鮮に渡るとはおおよそ考え難いので、何らかの民生用レーダーを調達して島に設置したという可能性が考えられます」(古川氏)