「いまも新疆ウイグル自治区に住む母ときょうだいに連絡を取ろうとしても、電話が通じるのは母だけです。しかも最近は以前より明らかに口数が減り、私が何を聞いても母は『大丈夫よ』と繰り返すのみ。正直なところ、祖国にいる家族の身が心配です」──こう打ち明けるのは、今年8月に来日した英国在住ウイグル人のエンヴァー・トフティ氏(56)。中国国内におけるウイグル人への人権弾圧を世界が問題視する中、トフティ氏は故郷に残した家族の身を案じる毎日を過ごす。
元外科医であるトフティ氏は、中国政府にとって不倶戴天の敵といえる。トフティ氏は1998年、中国が1960年代から秘密裏に新疆ウイグル自治区で行ってきた核実験の被害を告発したことで、1999年、英国への亡命を余儀なくされた。
そんなトフティ氏が開けた次なる「パンドラの箱」が、中国による違法な“臓器狩り”である。以前より中国は、ウイグル人や法輪功の学習者といった「良心の囚人(不当に逮捕された無実の人々)」から強制的に奪い取った臓器を、利潤の高い国内での臓器移植手術に利用していると噂されていた。
英国亡命後に「人権」の存在を知ったトフティ氏は、2009年に中国の臓器狩りを告発する米国人ジャーナリストの講演を聴講した際、自ら挙手して「私が実行しました」と初めて公に証言した。
その証言によると、1995年に新疆ウイグル自治区にあるウルムチ鉄道局中央病院の腫瘍外科医だったトフティ氏は、主任外科医からある処刑場への出張を命じられたという。現地で待機中に数発の銃声を聞き、慌てて駆けつけると右胸を撃たれた男性が倒れていた。
「その場で主任から『急いで遺体から肝臓と腎臓を摘出しろ』と命じられて男性の体にメスを入れると、体がピクリと動いて血が滲み出ました。その時、男性はまだ生きていて心臓が動いていることがわかりました。命じられるまま臓器を摘出して主任に渡すと、彼はそれを箱に入れて、『今日は何もなかったな』と言い、口止めされました」(トフティ氏)