「やり残したこと」に挑戦して、新たな発見を得ていく──現在の横内の姿勢は、多くの読者にも勇気になるはずだ。
「俳優ってご都合主義なところがあるんですよ。たとえば女優さんは自分の実年齢をすっ飛ばしていつまでも若い役をやりたい願望があります。それは男優も実は同じで──別に若い役をやりたいというわけではないのですが、年だからといって諦めるのではなく、年なりの挑戦の仕方があるんじゃないかなという考え方でやっています。
この歳になってもう一度やってみたいと思える新劇の魅力は、妥協がないということかな。商業演劇の場合、多忙な名前の知られた俳優を揃えて、短期間で仕上げないといけない。関係者の皆さんにそれぞれ都合があるから、それに合わせて適当に譲歩しながら、妥協しながら、すり合わせて作品をつくっていく。
ところが新劇は、一つの問題提起があった場合はそこをクリアしないと次に進めません。そういう凄く不器用な作り方が新劇にはあるわけです。
それと、光り輝くような、わっという豪華絢爛な舞台とはずいぶん世界が違いますね。もっと明るくした方が見えるんじゃないか。こんなに暗くちゃ表情も見えないんじゃないかという作り方もします。
そうやって、多くの方にはなかなか受け入れてもらえないんじゃないかというような、地道な歩みの中で演劇と関わりをもつ人間たちって、愛おしいんです。僕も若い頃、劇団俳優座に十年間在籍しましたからね。その感覚を失わずに来られたことは自分で自分を褒めてあげたいとすら思います」
■撮影/黒石あみ
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号