映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の横内正が、七十代なりに挑戦できるシェイクスピアへの取り組みについて、今も持つ絢爛豪華ではない新劇の不器用な作り方への愛おしさについて語った言葉についてお届けする。
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横内正は二〇一六年から三年連続で三越劇場での『リア王』に主演、さらに今年は『マクベス』を演じ、七十代後半になる中でも旺盛な活動を続ける。
「限られた人生の中で、自分の好きな、やり残してきたものを少しでも埋めていきたいという想いがあり、もう一度シェイクスピアに取り組み始めました。
あれもこれもやりたいのですが、僕の年齢で一番問題なくクリアできるのはリアしかないと思ったんです。それでライフワークにすることにしました。年齢とともに、また違ったリアがあっていいと思うんです。
リアは本来、四十代、五十代、ぎりぎりで六十代までの、凄く闊達でパワフルな俳優がやる役どころです。それぐらい、凄いものを求められる。でもそればかりではないんじゃないかという想いが芽生えてきまして。僕の年齢なら年齢なりに対応できるものが絶対にあるはずだ、と。
『マクベス』は僕の年代でやるのは大変珍しいと思います。それでも、これもまた『僕がやっても成立するんだ』というものを今回は探し出しました。
マクベスという人物は、決して三十代、四十代という壮年期に限定されてないんです。自分の老いというものに対する想いがセリフの中に込められている。そのセリフから推測しても、まだ十分に僕が演じる必然性があり、リアリティがあると僕なりに読み込みまして。そこを僕自身が演出する中で膨らませて表現してみました」